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松田青子さんが姫路のタワレコで出あったeels「electric-shock blues」 深い喪失の中から生まれた歌に涙

 高校二年間をアメリカで過ごした後、日本に帰ってきてからは、住んでいた姫路から大阪の学校に通っていた。

 学校帰りの楽しみは、姫路の駅前にかつてあったファッションビル、フォーラス(当時、下の階はナイスクラップなどの服屋が入っていたが、上の階に行くに連れて古着屋なども現れ、自由度が上がっていった)に入っていたタワーレコードで、新譜を視聴することだった。今とは違い、YouTubeも音楽配信もなく、ラジオや有線を聴く習慣がない私にとって、それは新しい音楽に出会える少ないチャンスだった。

 ある日、いつものようにタワーレコードに寄ると、視聴コーナーで、目に飛び込んできたアルバムジャケットがあった。二人の人が夜空を飛んでいるイラストが描かれていて、片方の人は犬を連れている。三日月の横には、


eels
electric-shock blues

と、手書きの文字が書かれていた。

 気になったので、早速ヘッドフォンを装着し、おすすめ曲だとしてスタッフのレコメンドがついていた「Last Stop:This Town」を聴いてみた。

 ガサガサとした優しい声が、

 
君は死んで、世界は回り続ける
君がいなくなった世界を見て回らないか
 

 と歌いはじめる。歌詞に驚いているうちに、気づけば、私はその場に立ったまま泣いていた。

 この歌は、死んだ誰かに対して、最後にもう一度この街に来ないかと呼びかけていて、その呼びかけに応じる声がある。頭にぱっと情景が浮かんだ。まるで短編小説のような歌だった。

 迷わずにそのCDを買ったのだが、その後、じっくりと聴いてみて、私はEという人がつくる歌がとても好きになった。陰鬱で、悲しくて、でもなぜか、どこか明るい。独特の物語性があって、多くの曲がSFやファンタジーのような世界観を有していた。お葬式の歌がいくつもあり、「病院食」というタイトルの歌があったりした。

 数年後に出たアルバム、Daisies of the GalaxyのCDに入っていたライナーノーツを読んで、私ははじめてelectric-shock bluesがどういうアルバムだったかを知った。この世界から永遠に去ってしまった姉に捧げられた作品だったのだ。そして、Daisies of the Galaxyには、前作のツアー中に闘病していた癌で亡くなった母への思いが込められている。「ロケットの発射や繁華街なんかよりも私は鳥が好き」と歌う、I Like Birdsという歌が私はとても好きなのだが、それは彼の母がそうだったらしい。深い喪失の中で、それでもコンクリートから挫けずに顔を出すデイジーの花について歌う人の音楽は、今ではすっかり私の一部になっている。