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三島由紀夫賞・ 山本周五郎賞、評価のポイントは 新川帆立さん「理不尽な体験や声、書き残したかった」

三島賞の中西智佐乃さん(左)と山本賞の新川帆立さん

 第38回三島由紀夫賞と山本周五郎賞が16日に決まった。三島賞は中西智佐乃さんの「橘(たちばな)の家」(「新潮」3月号)、山本賞は新川帆立さんの「女の国会」(幻冬舎)。どう評価されたのか、受賞記者会見の発言で振り返る。

 三島賞の「橘の家」は庭に古い橘の木のある一軒家に住む家族の物語。受胎を願って家にやってきた女性の腹に手をかざし、「小さきもの」を感じる少女の半生を通して、子孫繁栄を祈る人間の業を描いた。

 選考委員の中村文則さんは「女性の身体性が書けている。男性作家だと真面目な小説になりがちなところを、いい意味でふてぶてしく書いていて魅力的。妊娠するしないの話が多いなか、スピリチュアルな視点から書くのは珍しく、それでいて当事者にちゃんと寄り添えている」と述べた。

 中西さんは1985年生まれ。2019年に新潮新人賞を受けてデビューした。受賞について「人生で2番目に思ってなかったこと。1番目は新潮新人賞。人生は何が起きるかわからない」と喜んだ。「答えを出すのが難しいテーマを、考えながら書くのが私のスタイル。これからも読者と一緒に考えられるような小説を書き続けていきたい」

 山本賞の選考は、候補5作とも横並びの評価で混迷を極めた。選考委員の小川哲さんは「小説の隅々まで語り尽くした結果、本当にごくわずかな差で決まった」と振り返った。

 受賞作「女の国会」は、国会のマドンナと呼ばれた議員が遺書を残して世を去ったところから始まり、ライバルだった野党議員の女性らが死の真相を探っていく物語。小川さんは「女性の生きづらさといった問題意識を、上手にエンターテインメントに落とし込んでいる」と評した。

 新川さんは1991年生まれ。「このミステリーがすごい!」大賞を受け、2021年にデビューした。本作について「すでに男女平等が達成されているとか、女性側の努力不足ではないかという言説がある中で、理不尽な目にあっている人たちの体験や声が消えていくのが嫌で、書き残しておきたかった」。受賞については「読んでくださる方も増えるかもしれないし、より後に残る形になったのがうれしい」と語った。(野波健祐、堀越理菜)=朝日新聞2025年5月21日掲載