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「リエゾン」で知る、児童精神科医のお仕事 説明できない気持ちを探り、安心できる居場所を提供

文:片岡まえ

 目に見えない心。その不調を診察し治療する精神科医を描く漫画『リエゾン こどものこころ診療所』(原作・竹村優作、漫画・ヨンチャン、講談社)を紹介します。フランス語で「連携」の意味があるリエゾン。親や学校、地域と連携しながら子どもの居場所を作り、笑顔にすることが仕事です。

 主人公の遠野志保は小児科医を目指す研修医。ある日、必要量の10倍の薬を処方し、危うく患者を殺しかけたと大目玉を食らいます。遅刻と忘れ物は日常茶飯事、いつも何かに追われ、落ち着きのない毎日を過ごしていたのです。

 しくじってばかりで落ち込んでいる最中、地方にある児童精神科の病院での臨床研修が決まります。研修初日、白衣を着た医者らしき男性の指示で泣きながら便器に手を入れる子どもを見て止めに入った志保ですが、実は、清潔さに強迫観念を抱く子どもの治療中でした。

 この男性、医師の佐山卓に失態を詫びると、志保自身も発達障害だと告げられる思わぬ展開に。志保のようにドジで早とちり、うっかりミスを連発し、何度も注意される、それでも挫折を感じないのが注意欠陥・多動性障害(ADHD)の症状です。心当たりがあると思いながらも、志保はすぐに受け入れることができません。

©ヨンチャン・竹村優作/講談社

 診察に訪れるのは、特定の分野に秀でており、こだわりが強く融通が利かない、比喩や曖昧な表現が理解できず、人の心を読むのが苦手といった、自閉スペクトラム症などの症状を抱えた子どもたち。自閉症の子どもは時間についての感覚が敏感で、「ちょっと」や「もう少し」が何分かイメージできず、ヤキモキしてしまう事が多いのだとか。

 緻密な絵を描くことができるのに、なぜか母親に絵を見せることを嫌がる子どもも。志保は「うまく描けたら見せてね」という母親の何気ない言葉に、「うまく描けるまでは見せてはいけない」と子どもが勘違いしていた事実を発見します。診察では患者や親との会話のほか、絵を描かせる、砂が入った箱にミニチュアを置く動作などから、苦しみや悩み、ストレスなど言葉にできない気持ちを見つけ、遊びを通じて治療関係を作っていきます。

 彼らは一人での生活に支障はないのですが、学校というコミュニティでは授業中にじっと座っていれない、忘れものを何度も注意されるなど様々な壁にぶち当たります。そのため、児童精神科医は担当教師のほか、スクールカウンセラー、養護教諭らを交えて、診療中の子どもの情報を共有し、専門家として助言することもあります。障害のある子は、音や光に敏感で、教室のような騒がしい場所では、疲弊して不安になることがあります。毎日同じ行動を繰り返すことで、今日もいつも通りの一日だという安心感につながることを伝えるのです。

 発達障害と診断された人は日本では48万人もいるそうです。志保は知人にカミングアウトを試みますが、「忘れ物は誰でもする」「重く考えることない」など悪気のない反応から、世間の認識を知ることに。何度も同じことで怒られ、回数を重ねるごとに呆れられるのもつらく、必死に生活していることを知ってほしいと訴えます。

 佐山は、発達障害の善いも悪いもひっくるめ「凸凹(でこぼこ)」と呼んでいます。足りない部分は何かで補ったり、誰かを頼ったりすればいい。自分のキャラクターを深く理解したうえで、あなたの凸凹にぴったりとハマる生き方や闘い方を編み出せばいい、と志保を勇気づけます。自ら痛みを抱えているからこそ、当事者に寄り添うことができる。パワーアップした志保の活躍が楽しみです。

「リエゾン」で知る、発達障害

  • 児童精神科医には、発達障害のある人が多い
  • エジソンやビル・ゲイツなどの著名人もADHDを疑われていた
  • 少子化が進んでいるのに、児童精神科医に通う子は増えている傾向がある。しかし、受け皿となる医師が不足している
  • 子どもだけではなく、親も発達障害の場合がある
  • 発達障害と診断され、「まさか自分が」と驚く人が多い
  • 鍵や携帯などよく使うものを一つにまとめておくなど、ストレスを減らす手段は意外とある