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乃木坂46・山崎怜奈さん「歴史のじかん」インタビュー 歴女アイドルが語る、魅力的な歴史上の人物とは

文:五月女菜穂 写真:篠塚ようこ

人間なんて全部多面体

――今回書かれた『歴史のじかん』。番組のMCを担当されて、全50回の中から14回分抜粋されました。どういう基準で、14回を選んだのですか。

 面白いと思って、印象に残ったものです。あと教科書にあまり載っていなくても、魅力的な歴史上の人物はたくさんいるので、そういう人を勉強する歴史本があってもいいかなと思って。自分が素直に好きだなと思った人物は入れました。

――「太宰治×恋愛」「岩崎弥太郎×自己肯定感」「塙保己一×『見えない』ということ」など、コラムのテーマ設定も独特ですが、それぞれご自分で考えられたんですか。

 そうですね。対談の中で取り上げた人物や出来事から、キーワードを拾ったり、エッセンスを凝縮させたりして、テーマを決めました。歴史を知らない人でも分かりやすいよう、普遍的なことをテーマに書きました。

――執筆を通じて、価値観や捉え方が変わった人物はいますか。

 明智光秀や井伊直弼など、後世で悪く言われている人について、彼らは彼らなりの信念があったと思うんですよね。人間なんて全部多面体。その一つの出来事だけを見ているのはもったいない気がするんです。

 彼らは彼らなりに、その当時に守らなきゃいけないと思うものや、変えていかなくてはいけないという信念に基づいて動いていたと思う。それを否定したり、ないものとしたりすることは絶対にしたくないなと思っていたので、彼らを取り上げられてよかったなと思います。

「自分に自信がないんです」

――対談相手の専門家の先生と対談するときは、事前に勉強はされたんですか。逆にしなかったんですか。

 塙保己一など、全然知らないなと思った人物や出来事は勉強しました。でも、自分からやりたいと提案した蒲生氏郷や伊能忠敬などは特別な準備はしていないです。

――山崎さんのノートがすごいと専門家の先生がおっしゃっていたそうですが。

 私、準備魔なんです。自分に自信がないので、準備をしないと、培えない感じがする。どの仕事でも基本的に、予習するか、復習するか、その両方をやるか、3択なんです。初めてMCをやる番組だし、リアクションをとるのも私しかいない。大まかな台本が頭に入ってないと怖いなって思っていたんです。

――真面目ですね。

 いや、自信がないんです。ちょっとでも自信があったら、自分のことを信じて、ぶっつけ本番でもいけるかもしれませんが、自分はそれで走れないのがよく分かっているので……。とりあえず走ってみて、しくじるのがすごく嫌なんです。

 もともと乃木坂46のメンバーの中でも、スタートダッシュが早かったかと言われると、全然そんなことはなかった。一つ一つのチャンスや与えていただいたものを、100%以上で返さないとやばい、この先ないなと思っていた。その焦りは今もずっと続いています。

――え、今もですか?

 今も将来、とても不安ですね。

――「歴女」という武器を手に入れられたと思いますよ。

 私は歴史に詳しいというより、ただ好きなだけです。ある程度、自分に対する諦めと妥協は持ちつつ、やれることはやろうと思っています。

――今は好きなことをお仕事にできている。

 ありがたいことだと思っています。クイズもラジオも歴史も。選ばれた責任はちゃんと果たそうと常々思っています。私よりクイズが強い人なんていっぱいいるのに、限られた出演者枠をもらってるからには、是が非でも対策していこう、とか。

――そういう冷静な観察眼はどう培われたんでしょう。

 私は一人っ子で、両親が共働き家庭だったので、基本“鍵っ子”だったんです。1人で何かを悶々と考えていたり、何かを読んでいたりすることが多かった。

 両親も10代の頃から、「自分で責任を持てるものは自分で持て」という教育方針でした。調べられるものは自分で調べなさいと言われていましたし、お金も収入と支出の記録をちゃんとつけて計画的に使うように教えられていました。

 あと、小学生の時は、ゲームをずっとやっていました。なんでもゲーム感覚で、勝ち負けとか、続けていくことで得られるものとか、そういうのを体験として植え付けられた気がします。学校の勉強も感覚的にはゲームでした。

――その割に、競争は苦手と本には書かれてました。

 そうなんです、疲れちゃうんですよね(笑)。

 中学3年間は「勉強ガチ勢」で、成績順位が張り出される度にすぐ結果を見に行くような子どもでした。学年1位、2位もよくとっていたんです。その当時の勉強って、自分が努力した分だけ報われる世界。やればやっただけ結果になる。

 でも、高校1年生の春から乃木坂46に入ったら、どんなにダンスがうまくなっても、歌がうまくなっても、自分の外見を磨いても、それだけでは通用しない世界で。一体何をこれ以上努力すればいいんだろうと結構考えた時期もありました。

受験勉強の「歴史」≠大人になってからの「歴史」

――山崎さんが歴史好きになったきっかけを教えてください。

 もともと父親が日本史や世界史好きで、本もたくさん持っていたので、借りて読んではいたのですが、小学5年生のときに、大河ドラマの「篤姫』(2008年)を見て、本格的に好きになりました。以来大河ドラマは全部見ています。

――科目としても社会や歴史も好きだったんですか?

 そうですね。中学2年生の時に教わった日本史の先生がすごく面白い人でした。落語のように歴史の授業をする先生で、ただ暗記をするというよりは、ストーリーで歴史の流れをつかむことができたんです。思えば、歴史の面白さに気づくきっかけでした。

――先生との出会いもあって、歴史にのめり込んでいく。

 勉強って、ただ勉強と思うとつらくないですか?いかに楽しむかがコツだと思うんです。そういう意味では、どの教科よりも歴史を楽しんでやってはいたと思いますね。

――暗記科目というイメージはあまりないわけですね。

 もちろん大学受験は暗記勝負なので、ガリガリやっていましたよ(笑)。でも、大人になった今、改めて歴史を学び返すと、そんな焦燥感に駆られずに学べる。今の方がより楽しいですね。例えば、日本史を知っていると、日本のいろいろなところに行くのが楽しくなる。一石何鳥にもなるなと感じています。

――受験勉強でやる日本史と、大人になってやる日本史は全然違うものですか。

 全然違います。楽しむ余裕が持てると思います。やはり教科書に載っている歴史は、勝者の歴史だから、描かれてない部分が多すぎるんです。でも、教科書のようにまとまっていないと、暗記物としては広すぎますからね。

 アメリカの学校の歴史の授業は、まず近代からやって、現政権までをちゃんとやるそうです。それに比べて、日本の歴史の授業は、縄文時代とかから始まって、明治時代以降に入ってくると、すごく急ぎ足になるじゃないですか。

――確かに、学生時代の授業を思い返すと、「全部終わらない」という記憶があります。

 そう、終わらない。最後、先生は焦り出し、生徒もだんだん飽きてくる。結局今の現代社会につながっているような近現代史が浅めに終わってしまって。それは、受験勉強をしていても、今大人になっても、もったいないなと思っています。

龍馬のような柔軟さをもって

――この本をどんな人に読んでほしいと思いますか。

 歴史のテストの点数を伸ばすためなら他に読むべきものがありますが、その必要がない人たちはぜひ読んでほしいです。歴史って「自分が生きられなかった人生のサンプル集」だと私は思うので、悩んでいることのヒントになったり、生活のプラスになったりすることがきっとあると思います。

 『歴史のじかん』というタイトルの時点で、歴史好きではない人はアレルギー反応を起こすと思いますが(笑)、読んでくださった方の反応をうかがうと、特にコラムの部分は、それぞれが抱えている思いやモヤモヤに刺さる部分があるみたいで。自己肯定感とか恋愛で悩んでいる人とか。何かのきっかけになれたらいいなと思います。

――山崎さんのこれからの夢を教えてください。

 よく聞かれるんですけど、とりあえず最低限お金を稼いでいきたいです。必要最低限の生活をするということが大前提の目標としてあるので、今もう十分幸せなんですが……。

 あとは、お世話になっているテレビ番組やラジオを広めたい。まだ番組を知らない人の目や耳にいかに浸透させるか。それが今のところの目標ですかね。

――歴史上の人物で憧れている人や目標としている人は誰ですか。

 坂本龍馬です。好きなことをずっとやり続けて、人と人の縁をつなげたり、社会で仕組みを変えたり。自分の身を顧みずに、夢を着実に叶えていった姿が純粋に格好いいなと思いますね。私も龍馬のような柔軟さを持ちたいなと思います。

――ちなみに、大好きな大河ドラマに出演したいという夢はないのですか?

 ないです、ないです! 前回の「麒麟が来る」も全部見ましたが、おそらく大河ドラマ史上一番撮影大変だったのではないかなと思います。「信長たるもの」を1回崩して、もう1回再構築したみたいな感じがあって、震えました。本当に役者さんって素晴らしい職業ですよね。もちろん声をかけていただけたら嬉しいですけど、それよりセットや衣装や撮影方法が見たくなっちゃう(笑)。