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二見正直さんの絵本「もっとおおきな たいほうを」 キツネがあぶり出す人間性

文:坂田未希子、写真:本人提供

王様とキツネの競い合い

――先祖代々伝わる立派な大砲を持っているのに、戦争がなく、撃つことができない王様。ある日、領地の川でキツネが勝手に魚をとっていると聞き、大砲をドカンと打ち上げ、追い払うことに成功。ところが、キツネは王様より大きな大砲を持ってきて……。王様とキツネの競い合いを描いた二見正直さんの『もっとおおきな たいほうを』(福音館書店)。「より大きなものを!」という競い合いは、楽しく読める反面、エスカレートしていくことの恐ろしさを感じる作品だ。

 ユリ・シュルヴィッツの絵本『ゆき』に感銘を受けて、絵本を描きはじめました。『ゆき』は、自分が子どもの頃に感じていた世の中への疑問やわだかまりが表現されていて、理屈を超えたところで惹かれたんです。絵本の持つ力はこんなにも尊いものなのかと。自分も誰かに影響を与えられるような作品が作りたい、そう思って絵本を描きはじめました。

 当時、働いていた朝日新聞の販売店の所長さんが「どうせやるならプロを目指せ」と応援してくれて、高橋宏幸先生の絵本作家養成講座に通って勉強していました。そんな時、職場の同僚とケンカして、トラブルを起こしてしまったんです。所長さんや周りにも迷惑をかけて、なんて自分は愚かなんだと、惨めな気持ちになりました。そんな自分の愚かさを描いたのが『もっとおおきな たいほうを』です。人間の愚かさ、戦争や企業競争など、いろんな意味で愚かなところをあぶりだしてやろう、そんな想いを込めた作品です。

『もっとおおきな たいほうを』(福音館書店)より

――争うのは人と人ではなく、王様とキツネだ。

 子どもの頃からキツネが出てくるお話が妙に好きだったように思います。新美南吉の狐三部作も好きですし、高橋先生の代表作『チロヌップのきつね』(金の星社)もキツネです。『もっとおおきな たいほうを』もそうですが、キツネにあぶり出される人間性というのが好きですね。大砲にしたのは、具体的に人を殺傷するようなイメージのものではなく、ゲームっぽいというか、大げさでバカバカしくも見えるもの、絵本的なものということで選びました。

 最初に作った時は、最後のページと裏表紙の絵はなかったんですが、編集者さんからの提案で付け加えました。これが入ったことでより絵本らしくなってよかったです。絵本が出版されたときは所長さんもとても喜んで、100冊買って、販売店のお客さんにも配ってくれました。本当にお世話になって、感謝しています。所長さんの応援がなかったら描けなかったと思います。

『もっとおおきな たいほうを』(福音館書店)より

――「より大きな大砲を!」「大きさで負けるなら数で!」。王様がエスカレートしていく姿は滑稽で、笑って楽しめる作品だが、一方で平和を考える作品としても読まれている。

 アジア地域で教育が受けづらい環境にある子どもたちを支援する「シャンティ国際ボランティア会」の活動で、カレン語、ラオス語、ビルマ語に翻訳されて、アジアの紛争地域にある子どもたちにも届けられています。時を超えて、国を超えて読んでもらえるのが絵本の魅力だと思っているので、うれしいことです。ぼくの好きなユリ・シュルヴィッツは、ポーランドで生まれ、ユダヤ人として迫害を受けて辛い想いをしたというバックグラウンドがあります。

 ぼく自身は戦争を体験していないけれど、世界唯一の被爆国の国民であるという意味では、心の深いところで共通点を感じているから、シュルヴィッツに惹かれるのかもしれません。本作も平和を強調したつもりはないのですが、根底にはそういう想いがあります。

――現在は絵本の世界から紙芝居の世界へシフトチェンジしているという二見さん。

 今、伊勢に暮らしています。第五福竜丸の話を紙芝居にして、読み聞かせる活動をしています。今後はもっと地元に密着した活動をしていきたいなと。近所に「みやがわ書店」という有名な本屋さんがあって、かこさとしさん内田麟太郎さんさいとうしのぶさん、多くの作家さんが訪れています。イベントもよくやっていて、ぼくの原画展を開いてもらったり、お手伝いもさせてもらっています。作家と読者を結びつけてくれる、ありがたい本屋さんです。今はネットで簡単に本が買える時代ですが、地元の本屋さん、人の温もりを感じられる暖かいお店をご贔屓にしてもらえると、作家も活動しやすいし、嬉しいですね。