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新曜社・清水檀さんがつくった『はじめての沖縄』(岸政彦) 意識しないこと・知らずにいることを丁寧に

 「中学生以上すべての人へ」と銘打ち、十八年前にスタートしたノンフィクションシリーズ「よりみちパン!セ」は、これまで様々な事情で版元を三つほど転々としてきたが、私たちの多くが普段意識しないこと、知らずにいることについて、「読書家ではない」読者を舐(な)めずに書いてほしい、と不躾(ぶしつけ)にも著者に願いつつ続けてきた。

 現在の三つめの版元での一冊めは、沖縄研究者で社会学者の岸政彦さんの『はじめての沖縄』。沖縄を通して「マイノリティ」という存在を、そして「自分は誰なのか」を、いままで語られていない方法で問いかけていく。岸さん撮影の静かな写真の数々にも、沖縄が「いいところ」であること、そしてそう感じることへの葛藤とが写る。とても複雑でとても必要な本だ。

 石川直樹さん『増補新版 いま生きているという冒険』は、高校時代のインド一人旅から始まり、空、海、森、山、聖地や洞窟などの特別な場所や辺境の地を歩く旅の軌跡だ。巻末で石川さんは、「旅」と「冒険」について、何を体験するか、どこに行くのかということはさして重要ではなく、「心を揺さぶる何かに向かいあっているか、ということがもっとも大切なこと」だと結ぶ。

 近く大増補の上で刊行する『生きのびるための犯罪(みち)』。薬物依存の女性たちの回復施設、ダルク女性ハウスの面々が仲間と共に生き直そうとする切実な日々は、ひたすらに尊い。=朝日新聞2021年4月7日掲載

◇しみず・まゆみ 67年生まれ。新曜社で「よりみちパン!セ」などを編集。