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「女ふたり、暮らしています。」書評 友達とローン組んで風通しよく

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2021年04月10日
女ふたり、暮らしています。 著者:キム ハナ 出版社:CCCメディアハウス ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784484211039
発売⽇: 2021/03/01
サイズ: 19cm/334p

女ふたり、暮らしています。 [著]キム・ハナ、ファン・ソヌ

 ひとり暮らし歴の長いシングルが不安や孤独を感じるのは、ままあることだ。状況を変えたいと思った時に、恋愛感情をベースにした同棲(どうせい)や結婚ではなく、友情をベースにした共同生活を選ぶのも、珍しくはない。
 しかし、単なるルームシェアではなく、がっつりローンを組んでマンションを購入するとなると、ハードルは一気に上がる。著述家でラジオパーソナリティーのキム・ハナと、長年雑誌の編集者をやってきたファン・ソヌは、気の合う友達同士として、それを見事にやってのけた。本書は、そんなふたりの暮らしぶりをリレーエッセーの形式で綴(つづ)ったものである。
 女ふたりと、猫4匹。分子の結合になぞらえて「W₂C₄」と呼ばれるこの新しい家族は「家制度」の煩わしさから完全に解放されている。お正月にはそれぞれ実家に帰るだけでいいし、相手の家からお惣菜(そうざい)をもらった時も、「わざわざ訪ねていったり、親孝行のための旅行を計画する必要もなく、『おいしかったです!』とひとこと言えばいい」。つまり「○○家の嫁」をやらなくていいのだ。シングルの気楽さと、パートナーのいる安心感。その両方が手に入るのは、たしかに魅力的である。
 一方で、共同生活の大変さについても正直に書いてある。諍(いさか)いを好まないソヌは、まっすぐ怒りをぶつけてくるハナに戸惑うが、やがてけんかが「シャベルで感情の流れる道を掘り、流れをよくするため」にあると理解し、「まったくけんかしない軟弱な平和よりもずっと健康的」だと考えるまでになる。人間、変われば変わるものだ。互いに影響を与え合い価値観を更新していく様子は、まるで実験や冒険のようである。
 もしもあなたが「自分の人生、ずっとこのままなのかな」と思っているなら(シングルかどうかにかかわらず)本書を読むといい。ふたりの対等で風通しのよい関係性から学べることが、きっとあるから。
    ◇
Kim Hana 1976年生まれ。韓国のラジオに出演▽Hwang Sunwoo 1977年生まれ。元ファッション誌編集者。