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本屋大賞・翻訳小説部門で1位「ザリガニの鳴くところ」  孤独の時代、命が持つ力を信じて

『ザリガニの鳴くところ』訳者の友廣純さん=東京都千代田区、井手さゆり撮影

 書店員が「いちばん売りたい本」を選ぶ本屋大賞には、国内の小説を対象にした「大賞」以外に、翻訳小説部門がある。その名の通り、翻訳小説が対象だ。

 今年、1位になったのは、米国の動物学者ディーリア・オーエンズさんが初めて書いた長編小説『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)。14日の発表会には翻訳した友廣純さんが出席、トロフィーを受け取った。

 同書は、米国で700万部のベストセラーになった。南部の湿地帯で周囲から孤立し、自然を相手に暮らす少女が成長する過程が描かれる。十数年後に男の死体が湿地で見つかった場面が合間に差し挟まれ、緊張感とともに物語が進んでいく。

 オーエンズさんはビデオメッセージを寄せ、「この作品にはいろいろな要素がありますが、その一つが孤独。コロナの時代を生きる私たちは孤独がもたらす影響について多くを学んだ。人間にはいざという時に問題を解決する力と治癒力が備わっていることも、この作品は伝えている」と語った。

 友廣さんは「すべてを読み終えて感じたのは悲しみや苦しみよりも、不思議な解放感だった。オーエンズさんは通奏低音のように『どんな命にも生きようとする力が備わっているんだ』という力強いメッセージを発している」と話した。また、アフリカでフィールドワークを続けたオーエンズさんの経歴にふれ、「車で何日も走らなければ文明の痕跡さえないような場所で、壮大な自然の営みを目の当たりにしたときに何を感じるのかは私には想像さえ難しいが、著者の素晴らしい経験がこの作品のバックボーンになっているのは間違いない」と解説した。(興野優平)=朝日新聞2021年4月21日掲載

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