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本屋大賞に「52ヘルツのクジラたち」 町田そのこさん「胸を張って氷室冴子さんにお会いできる」(授賞式詳報)

文・写真 吉野太一郎

 全国の書店員がいちばん売りたい本を投票で選ぶ「2021年本屋大賞」(第18回)が4月14日、発表され、大賞に町田そのこさん『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)が選ばれました。

 「52ヘルツのクジラたち」町田そのこさんインタビュー 虐げられる人々の声なき声をすくう(好書好日の記事から)

 『52ヘルツのクジラたち』は、親から長年にわたって虐待を受け、心に深い傷を負った女性が主人公の長編小説。言葉を発することができない少年との出会いを通じて、DVや児童虐待などの問題を浮き彫りにしていきます。

「2021年本屋大賞」大賞を受賞し、スピーチする町田そのこさん=2021年4月14日、東京・神保町

 この日、東京・神保町であった発表会と授賞式で、町田さんはクジラのブローチをつけて登壇。「自分の中でわだかまりとして残っていた問題。これを書くことで虐待問題に対する自分の姿勢を再確認して整理し直した」と作品を振り返りました。

 「(この本が出た)昨年の4月は新型コロナで世の中が今よりもっと混乱していた。その中で無名に近い私の本が、果たしてどこまでがんばれるんだろうと不安でした。ただ、この本はどんどん存在感を増していった。この本を売らなきゃとがんばっていただいた出版社、書店の皆さん、たくさんの人の思いが詰まった本を受け取ってくださった読者の皆さんのおかげです」と涙ながらにスピーチしました。

 また、作家を目指す大きな動機になったという氷室冴子さんについて「そろそろ胸を張ってお会いできるのかな。タイミングが合えばこの作品を持ってお墓参りに行きたい」とほおを緩ませました。

◆翻訳小説部門は「ザリガニの鳴くところ」

 また、翻訳小説部門の大賞は、ディーリア・オーエンズさんの『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)に決まりました。

 「ザリガニの鳴くところ」書評 作家・柴崎友香さん 一人の少女のサバイバル、読書で体感する意味(好書好日の記事から)

1950~60年代のアメリカ南東部ノースカロライナ州の湿地帯で起きた殺人事件の背景に、差別や貧困、社会の閉塞感や孤独といったが浮かび上がる作品。

オーエンズさんはビデオメッセージで「この本で描いた大きなテーマは『孤独』です。新型コロナで世界中で、多くの人々がつながりを絶たれましたが、人間は孤立した状況に合っても人とつながろうとする力を持っていることを教えてくれました」。

スピーチする『ザリガニの鳴くところ』の翻訳者・友廣純さん

 翻訳した友廣純さんは「貧困や差別、暴力などの重いテーマも含んでいるが、読み終わって感じたのは悲しみや苦しみより不思議な開放感でした。著者のオーエンズさんがあらゆる場面で『どんな命にも生きようとする力が備わっている』という力強いメッセージを発しているからだと思う。著者の動物行動学者としての経験が土台になっているのは間違いない。まだ読んでいない方にもこの世界を体験していただきたい」とスピーチしました。

 ジャンルや新旧を問わず書店員が「売りたい」と思う本を選ぶ2021年の「超発掘本!」には、みうらじゅんさんの『「ない」仕事の作り方』(文春文庫)が選ばれました。

 みうらじゅんさん「マイ遺品セレクション」インタビュー(好書好日の記事から)

 みうらさんは「子どもの頃から、映画館と本屋さんはシェルターみたいなもんだった。休みの日は半日ぐらい居座って、本を発掘するのが喜びだった。今回、自分が発掘された。しかも『超』がついてる。相当掘られたんだな。5年ほど前に出した本だけど、長い眠りから覚めたミイラみたいな気持ち。今後はミイラじゅんという名前でやっていきたい」と述べ、会場を笑わせました。

スピーチするみうらじゅんさん

 2021年本屋大賞は、2019年12月から2020年11月末までに刊行された日本の小説が対象。昨年11月1日から今年1月4日まで一次投票を行い、全国の438書店、書店員546人の投票で選ばれた上位10作品がノミネートされていました。

◆2位以下の順位は以下の通り

2. 青山美智子『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)

3. 伊吹有喜『犬がいた季節』(双葉社)

4. 伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(集英社)

5. 山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社)

6. 伊与原新『八月の銀の雪』(新潮社)

7. 凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』(中央公論新社)

8. 加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

9. 宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)

10. 深緑野分『この本を盗む者は』(KADOKAWA)