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「ヘイ!コロナ」ステージで浴びた罵声、どう切り返した? コメディアンSaku Yanagawaさんが直面するアメリカの「分断」

文:喜久知重比呂 写真:斎藤大輔

前編はこちら:Saku Yanagawaさん「Get Up Stand Up!たたかうために立ち上がれ!」 日本の元野球少年、マイク1本で全米を笑わせる

ビール瓶が飛んできたことも

――スタンダップコメディアンとして、安定してきたのはいつ頃ですか?

 2019年の10月ごろからヘッドライナーとして回って行けるようになりました。初めて渡米してから5年かかりました。この世界は60分やれると一人前とされています。自分の名前と顔がメインでポスターに印刷されて、ツアーができるのは、60分できるようになってからですね。

――州など場所が変わると、ウケるネタも変わってくるんでしょうか?

 もちろんです。なるべく前乗りして、おしゃれなバーとかじゃない、地元の人が行く酒場みたいなところで、これいける、これいけないと試しつつ、本番も空気を探りながらネタを変えていくというのが必要ですね。

――ブーイングを受けたり、お客さんを怒らせたりしたことはありますか?

 舞台に上がって来られたこともありますし、ビール瓶を投げられたこともあります。トランプ大統領を風刺したら、終わった後「日本に帰れ!」と言われたこともあります。

 でも、謝ることは絶対しません。自分が今の時代のギリギリだと思ったところを勉強した上で、批判覚悟で突いていくのが僕らの仕事の妙だと思っているので。だからこそ毎朝、新聞8紙を読んで、テレビはリベラルなCNNも保守的なFOXも見る。そういう努力を欠かしてはいけないし、無知でステージに立つのは罪だと思っていますね。

#MeToo・トランプ・BLM…コメディーは「最後の砦」

――お客さんに共和党支持者が多くて、トランプ前大統領を皮肉るのははばかられる場所もありますよね?

 そうなんですけど、トランプを支持しない僕が舞台に立って、トランプ支持のお客さんが、それでも僕のジョークに笑えるというのはすごく大事なことだと思うんですよ。いちばんなりたくないのは、自分と同じ意見の人の前だけでやる人。つまり自分にとって都合のいいお客さんの前だけでやること。これをしてしまうと「集会」なんですよね。

 スタンダップコメディーのいいところは、自分の視点を笑いで届けて、意見の違う人を笑わせること。コメディークラブという場所は、お客さんにとって、意見の違う人に出会う場所。そして、それを笑っていい場所なんですよね。意見の違う人が笑った時、分断ってなくなっていると思うんですよ。

――最近は#MeTooやBlack Lives Matterなど、社会的な風潮として女性やマイノリティーの側からの異議申し立ても強まっています。最近のスタンダップコメディーを取り巻く状況はいかがですか?

 二極化していますね。いわゆる差別的な発言をした人を炎上させて、ボイコットしようという「キャンセル・カルチャー」という波の中で、ギリギリを攻めることを回避していく流れがあります。今はLGBTQや人種的特徴、「デブいじり」「ハゲいじり」といった外見をいじるネタはほぼ見られなくなりました。クリーンなネタ、それこそ人を傷つけないネタをやろうと、フリップを使った芸とか、ギター漫談のようなところに行く人も出てきてしまうくらいです。

 その一方で、コメディーを社会の矛盾にも切り込める最後の砦と位置付けて、「俺たちが言わなければいけないんだ」と宣言している人もいるんです。たとえば女性のコメディアンがすごく元気です。日本よりも女性の割合が多いですし、むき出しの言葉で強い女性像を全面に押し出して、女性ならではの性を笑いにする、いわゆる「下ネタ」もガンガンやって行くというのが主流ですね。

ステージに立ったら「ヘイ!コロナ」

――コロナ禍ではSakuさんもかなり大変だったと聞きました。

 本当に絶望的でした。2020年はコメディーフェスティバルのヘッドライナーとして、あこがれだった60分の枠を手に入れたり、NBCの長寿バラエティー番組「サタデー・ナイト・ライブ」レギュラー出演者のショーにも抜擢されたり、飛躍の年になるはずでした。ヘッドライナーとして20州でツアーする!と公言していたら、コロナで次々キャンセルされてしまったんですよ。それでも去年は7州でツアーをやりました。

――アジア系への差別や暴力なども報じられていますが、影響はありますか?

 もちろんあります。街を歩いていてもすれ違った人に避けられますし。まだコロナが何となく他人事だった去年の2月には、シカゴのクラブでステージに上がったら、酔客に「ヘイ、コロナ!」とヤジを飛ばされたこともありました。

――どう対応したんですか?

 その客がハイネケンを飲んでいたので「ウェイター、この差別主義者にコロナビールを5本持ってきて」と言いました。続けて「金は誰が払うんだ? メキシコだよ」と。

――「メキシコからの不法移民防止のために国境に高い壁を建設して、費用をメキシコ政府に払わせる」という、トランプ前大統領の選挙公約を皮肉ったわけですね。

 客席は大拍手とスタンディングオベーションです。「差別に勝った」と、ちょっと誇らしく思いました。

 アジアンヘイトに対して、言葉でどう戦って笑いで伝えるかというのは、僕らに試されていることだと思うんです。最近はアジア系のスタンダップコメディアンも台頭してきていますけど、「アジア系は男性器が小さい」みたいな、定番だった人種的な自虐ネタを極力使わずに、アメリカ社会の変な所にもの申そうとしていると感じます。

僕はレモン。コメディー界の野茂になる

――今後の目標は?

 「メジャーリーガー」という言葉をあえて使いますけど、コメディーで(日本人メジャーリーガーとして初の大リーグ新人王に輝いた)野茂英雄さんにならなきゃいけないと思っています。35歳までに「サタデー・ナイト・ライブ」に日本人として初めてレギュラーで出る、これがメジャーリーガーになることだと思ってます。

 僕はアジア生まれアジア育ちですから、よく自分のことを「レモン」というんです。アジアン・アメリカンを指して、外側が黄色くて中側が白い「バナナ」という蔑称があるんですが、白人のメンタリティーをしたアジア系のことなんです。レモンは外も中も黄色いので、自分の視点を通してジョークでアメリカ人に「酸っぱい」って思わせる、そういう存在を目指しています。