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八木健治さん「羊皮紙のすべて」インタビュー 知られざる素材と人類史を展望

八木健治さん

 羊皮紙は、パピルス紙に代わる書写材として人類史に現れた。神の言葉が刻まれ、憲法や裁判記録など大切な文書に使われて、アメリカ独立宣言もこれに記されている。書物一般の普及にも大いに貢献した。

 その誕生から製法、文化としての広がりまでつづれば、分厚い本になるのは当然だろう。これでも入り口に過ぎないと著者は書いている。

 「どれほど研究しても、し尽くせない世界です」。語り口同様、著者は慎重かつ丁寧に本書をつづっている。自身の体験や調査から言えることと、そうでないことを明確に分ける姿勢は、科学者のそれに近い。

 文字や言葉への深い関心は、もともと翻訳家であることを知ればうなずける。それにしても、引用される古代ローマの詩人の一文やユダヤ法註解(ちゅうかい)書に「筆者訳」と付されているのには驚く。『梁書』『南史』といった中国の歴史書も登場する。

 子供の頃から手作りすることが好きで、それは映画で見た小道具だったり、ひもを引くと目が動くロボットだったりした。「引っ込み思案でした。今でも在宅は歓迎ですね」

 中学で英語習得に熱を入れ、高校で仏語も習い、美術部長を務めた。鈴木孝夫や森本哲郎、中西亮の著作に影響を受け、大学生の時に教会に誘われてクリスチャンとなる。服飾関係の仕事で中国に1年半暮らしたことで中国語を覚え、日本の図書館で知己を得たシリア人にアラビア語を習い、アラビア書道も始めた。

 それらすべての集大成のように、羊皮紙の世界に出会う。自宅の浴室で羊の皮から作るようになり、海外の職人や工場を訪ねた。輸入販売を手がけ、各地でワークショップも開く。日本ではさほど知られてこなかった素材だけに「これから、です。様々な可能性が広がっている」。

 保管次第で羊皮紙は千年持つという。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2021年5月8日掲載