「土木技術」というからには、土木関連の最新技術の動向などがメインで取り上げられている雑誌だろうと当然考えるわけです。ところが4月号の特集が「絵本と土木」とあって、おやっ? と思った。絵本?
ページをめくると、ノンフィクション作家の柳田邦男氏による絵本セレクション記事が冒頭にあり、『地下鉄のできるまで』『近代土木の夜明け』など土木に関連した絵本が数冊紹介されている。続く記事は「いま、絵本が売れる理由」で、文字通り出版業界の絵本まわりの現状が分析されており、土木技術についてはまったく触れられていない。
その後は土木に関する絵本とその教育効果に関する分析や、土木絵本編集者による寄稿などがあって、絵本がらみの記事が全体の6割を占める。特集だから当然とは思ったものの、よく考えると当然じゃない。だって「土木技術」なのだ。なぜ絵本を追いかけているのか。
実はこの「土木技術」、毎号特集がユニーク過ぎて以前から気になっていた。バックナンバーをみると「歌と土木」「夏休みと土木」「ラグビーと土木」「子育てと土木」「人の心理と土木」など、一見土木とは結び付かなそうなテーマを無理やり結び付けて特集している。なかでも私が驚き、かつ、この雑誌を知るきっかけにもなったのが昨年10月号の特集「妖怪と土木」で、鬼が築いたと伝わる石段の話や、山崩れを法螺(ほら)貝や大蛇の仕業とする伝承などが取り上げられていた。
どうしてそんな変わった特集ばかりやるのか。最近リニューアルされたホームページにこう書いてあった。「土木が主役というよりは、人の生活の様々な場面での社会と土木の接点を、市民の視点で紹介しています」。
4月号「絵本と土木」でも、土木はかつて3Kなどと言われ負のイメージが根強くあることや、社会基盤を作る身近で重要な仕事であるにもかかわらず世間にあまり理解されていないことから、イラストや絵本の力を借りたという学会誌編集委員の本音が寄稿されていた。どうか土木を敬遠しないでほしい、そんな切なる叫びが聞こえてくるようだ。そこまで下手に出なくても、と思ってしまうが、当事者は意外に傷ついているのかもしれない。
本誌も一般人が手に取るにはまだハードルがありそうだけれど、「女性技術者からのメッセージ」や「構造物偏愛のすすめ」など読みたくなる記事も少なくなく、ぜひこの独自路線で突き進んでほしいと思ったのである。=朝日新聞2021年5月12日掲載