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新泉社・安喜健人さんがつくった「宇井純セレクション(1)原点としての水俣病」 公害を問う言葉、まず自らに

 公害との闘いに生涯を捧げた環境学者、宇井純(ういじゅん)氏(1932~2006)。自らも水銀を川に流した一技術者であることの深い悔恨から水俣病の原因究明と患者救済運動に奔走し、また公害を生んだ社会や学問への問いとして自主講座「公害原論」を主宰した人物である。

 宇井氏は新聞雑誌から市民運動のミニコミまで数多くの媒体に寄稿し、精力的に発信を続けたが、講義録『合本 公害原論』(亜紀書房)以外に単行本は数えるほどしか残されていない。

 そこで、氏の思想と行動の全体像を掘り起こし、新しい世代に橋渡しする作業をやりとげなければならないと編者からお話があり、千を超える文章の中から百本強を厳選して、全三巻の「宇井純セレクション」に纏(まと)めることになった。

 「苦しむ人々を見て、やがては我が身の上と思いながらその苦しみの万分の一でも代弁することでなにがしかの良心の呵責(かしゃく)を免れようとしていた」「患者の立場に身をおいて、などと簡単に言えるものではありません。自分でそんな言葉を不用意に口にするたびに、しまったと思い、汗を流し」

 編者とともに宇井氏の言葉を掘り起こす作業の中で心臓を鷲摑(わしづか)みにされる思いを何度したことだろうか。氏の言葉は告発や糾弾の前に、まずは自身へと向けられる。内省的に思索を重ねた言葉は文学としての輝きを放ち、私たちが困難な問題に直面するたびに常に参照すべき力をもって現代に問いを発し続けている。=朝日新聞2021年5月12日掲載

◇やすき・たけひと 72年生まれ。2001年より新泉社に勤務。