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「戦士の食卓」書評 好きなように味わって心豊かに

評者: 押切もえ / 朝⽇新聞掲載:2021年05月29日
戦士の食卓 著者:落合 博満 出版社:岩波書店 ジャンル:スポーツ

ISBN: 9784000614641
発売⽇: 2021/04/16
サイズ: 20cm/196p

選手として三冠王を三度達成、監督として四度のリーグ優勝。偉大な記録を支えた愛妻・信子夫人の証言とともに、落合流「食の哲学」を初めて明かす。スタジオジブリ『熱風』連載を加筆…

「戦士の食卓」 [著]落合博満

 プロ野球界において選手、監督として数多くの偉業を達成した著者が「食」について語った一冊。
 食べることも重要な仕事であるトップアスリートだった著者がどんな食事をしていたのか、食そのものについてどのような考えを持っておられるのか。夫が同じプロ野球選手ということもあり、時折合いの手を入れるように挟まれる信子夫人のお話にも学ぶところが多かった。
 著者から「三冠王の生みの親」と讃(たた)えられる夫人は、出会った頃、好き嫌いも多かった著者の食事を改善し、一流の選手として活躍し続けられるようにあらゆる分野で工夫をし、支え続けた。実際に作っていた料理も紹介されているが、その丁寧さから、著者への深い思いやりと愛情が伝わってくる。
 故郷秋田の味や、今ほど豊かでなかった時代の食。プロ選手になってから知った名店の味に夫人の手料理……と、登場する料理はその逸話を含め、どれも食欲をそそるものばかりだ。
 また食の話から派生して語られる経験や信念、読者への助言なども読み応えがある。食事情が大きく変化する中、著者は情報に翻弄(ほんろう)される現代人の生き方に疑問を投げかける。諸説ある健康管理や栄養管理の情報が本当にその人に合っているかどうか、自分自身で答えを導き出すことが大切だという。その考えに私は安心感を覚えた。夫と結婚した時、基本的な栄養知識は頭に入れておきたいと専門資格を取得したが、本人が細かく食事管理されることを好まないことがわかり、以降、バランスは考えつつ、リラックスして楽しんで食べてもらうことを優先しているからだ。
 「食は人間の生活、もっと言えば『生きていく』ということに最も密接しているのだから、食べたい物を好きなように味わい、そこから心の豊かさも育んでいくのがいい」。著者の食は一貫して生きることに通じている。
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おちあい・ひろみつ 1953年生まれ。元プロ野球選手、元中日ドラゴンズ監督。著書に『采配』『戦士の休息』など。