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「とろける鉄工所」で知る、溶接工のお仕事 鉄の融点は1550度、作業は安全第一

文:片岡まえ

 溶接と聞いて思い浮かべるのはゴーグルを顔にあて、火花が飛び散るあのイメージ。2つ以上の材料を接合するために加熱し、溶かしてつなげる加工技術のことで、モノづくりの現場では欠かせない作業です。遊具、学校の門、乗り物、重機、首都高の足場などいたるところで行われている溶接ですが、その詳細は意外と知られていないのでは? 『とろける鉄工所』(野村宗弘、講談社)は、作者の野村さんが以前就労していた溶接工の体験を題材にした作品。「のろ鉄工」で働く若手からベテランまでの溶接工の日常と、彼らを支える家族がコメディタッチに描かれています。

 綿100%の燃えにくい作業服の上に革のエプロンと手袋をはめ、安全靴を履き、保護メガネをかけるのが溶接工の定番スタイル。溶けた鉄が花火の様に飛び散り、安全靴や手袋の隙間、背中や耳に熱いまま飛び込んでくるため、このような仕様が彼らの戦闘服なのだとか。

 本書によると、鉄の融点は1550度にもなり、溶接の光の中心部は太陽の表面温度に近くなるそうです。真夏のある日、流れる汗がメガネにたまり、あまりの暑さに我慢できず、窓を開けてしまった新人の吉川は、35年目のベテラン・小島にものすごい勢いで怒鳴られます。風や雨のダメージを受けると、溶接した部分がスポンジみたいに泡だらけになるという理由からで、夏の溶接はまさに地獄なのだとか。

 砥石で削ったり磨いたりする電動工具「ディスクグラインダー」を用いて溶接部分を平面に削り落とす作業では、削れた鉄が粉となって飛び散り、鼻から吸い込んでしまうこともあるそう。また、溶接の光で目が焼けて、激痛で涙が止まらなくなる通称「目玉焼き」など、溶接工を悩ませるシーンが多く登場します。実はベテランの小島はこの機械で片目を失明し、眼帯をしています。現在は安全が第一、働く環境も改善されつつあり、保護メガネをかけていれば「目玉焼き」も防げるそう。自分の身を守ることも溶接工として必要な心得といえそうです。

とろける鉄工所©野村宗弘/講談社

 若手の吉川は、質よりもスピードを重視、雑さが出てしまい、溶接跡もぼこぼこ。小島に「使う人間の事を考えて物づくりをしろ」と指摘されてしまいます。5年目の先輩・北からも小島との違いを見つけろというアドバイスされ、最初はふてくされていた吉川ですが、仕事をこなしていくうちに街で見かける溶接が気になるほど成長を遂げていきます。

 例えば自転車には溶接部分が多く、見た目がきれいでも溶け込みが悪いとペンキが入り込んで見えたり、反対に溶け込みすぎていると溶接がへこんで見えたりすることも。一つひとつのパーツは意味をなさなくても、つなぎ合わせることで形になり、作り手の腕や意図がわかる。小島に言わせると、溶接の魅力は「やればやるだけ力になること」なのだそうです。

 彼らはネクタイを締めることもなく、作業服は鉄粉と油でいつもドロドロ。しかし、その作業着を洗う溶接工の妻が、どこか誇らしげに笑っているのは、溶接のおかげで生活が便利になっているという尊敬の思いからかもしれません。

「とろける鉄工所」で知る、溶接工あるある!?

  • 職業柄、駅のホームや立体駐車場などのほか、ホームセンターなどで売られているステンレスの棚などあらゆる場面で溶接の状態を観察してしまう
  • 市販されている棚などを購入して溶接が甘いと自分で溶接し直す
  • アツアツの鍋の蓋を素手で持つことができる人もいる
  • 鉄工所は足元に鉄板が敷いてあることが多く、冬は底冷えする
  • 溶接の光にひかれ、蛾、蚊、蜂、ときにはカブトムシなどが入り込む。その焼ける匂いがけっこう臭い
  • 江戸時代には鍋や窯などを修理して歩く「デリバリー溶接」のような「鋳掛屋」という職人が多くいたが、鍋に穴が開かなくなった今はすたれてしまった