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浦沢直樹「あさドラ!」、灰田高鴻「スインギンドラゴンタイガーブギ」 戦後の昭和を舞台に、少女たちが奮闘

 今回は、私が個人的に連載を楽しみにしているマンガを2作取りあげます。浦沢直樹の『あさドラ!』と、灰田高鴻(こうこう)の『スインギンドラゴンタイガーブギ』で、ともに1950年代の日本で始まり、主人公の少女が社会のある特別な分野で才能を発揮し、自己形成を行う物語という共通点があります。

 浦沢作品の題名の『あさドラ!』は、ヒロイン・アサのドラマという意味ですが、否応(いやおう)なくNHKの連続テレビ小説を連想させます。そういえば、このシリーズは近代日本の動乱を生きぬく女性の一代記というのが定番です。コロナ禍以降、閉塞(へいそく)の色をますます濃くする現代において、解放と成長の幻想に酔えた戦後昭和という舞台は、古き良き時代へのノスタルジーとともに、少女の夢と冒険を描きだすのに絶好の場所なのかもしれません。

 『あさドラ!』の主人公アサは12歳の少女です。1959年の伊勢湾台風に遭遇し、軍隊帰りの男・春日の導きで、遭難した人々のために飛行機で空からおにぎりを撒(ま)く仕事を手伝います。ところが、春日は飛行機を盗んだ際に受けていた銃傷で、朦朧(もうろう)とした状態に陥り、代わってアサが飛行機を操縦しなければならなくなります。飛行機乗りを天職とする少女の誕生です。

 この物語の特色は、アサが伊勢湾で目撃した怪獣が重要な役を演じることで、最新巻では、17歳に成長したアサが、1964年の東京オリンピックを無事開催させるため、このゴジラのような怪獣と飛行機で闘うのです。第1巻冒頭には、2020年にこの怪獣のせいで東京が火の海になる未来の情景も描かれており、今後、アサの冒険がどう展開するのか大いに期待されます。

 一方、『スインギンドラゴンタイガーブギ』の主人公は、於菟(おと)という福井生まれの少女。姉が水難事故で記憶を失ったため、その恋人だったベーシストを探しだして姉に会わせようと、1951年に東京へやって来ます。そして、あるジャズバンドと出会い、1曲歌ったことが縁で、米軍のクラブなどで一緒に仕事をするようになります。

 見どころはむろんジャズの演奏と歌唱のシーンで、文句なしに読む者の心を沸きたたせます。戦後まもなくのヤクザ紛(まが)いの芸能界の事情も活写され、姉を思う情愛、ほのかな恋愛感情、バンド仲間との連帯と衝突、社会の底辺に生きる人々への共感など、様々なドラマが息つく暇もなく押しよせます。その物語の流れがさながらジャズのアドリブのように奔放で、こちらもともかく先行きが気になるマンガなのです。=朝日新聞2021年6月9日掲載