「沈黙の終わり」(上・下)書評 迷宮入り事件追う2人の記者魂
ISBN: 9784758413749
発売⽇: 2021/04/15
サイズ: 20cm/286p
ISBN: 9784758413756
発売⽇: 2021/04/15
サイズ: 20cm/285p
「沈黙の終わり」 [著]堂場瞬一
千葉県野田市の江戸川沿いで7歳の女児の遺体が発見された、というショッキングな事件で物語は幕を開ける。東日新聞柏支局のベテラン記者・松島は早速取材に乗り出した。
そのニュースを聞いた埼玉支局の古山は、埼玉でも4年前に8歳の女児の行方不明事件があったことを思い出す。調べてみると、その現場は吉川市で、今回の野田の事件と江戸川を挟んですぐ近くだった。
古山と松島が協力して両県の類似の事件を洗うと、江戸川近くで33年間に7件の女児殺害もしくは行方不明事件が起きていたことが判明する。しかもそのすべてが未解決。不審に思ったふたりは過去の事件を取材するが、両県警はなぜか妙に冷たい。さらには取材への圧力ともとれる言葉まで飛び出して――。
闇に葬られた迷宮入り事件を、記者魂溢(あふ)れるふたりが掘り返していくサスペンスだ。なぜ捜査の矛先が鈍ったのか。なぜ取材に圧力がかかるのか。背後にあるものに忖度(そんたく)することなく突き進むベテランと新鋭のふたりが、血の通った人間としてリアルに描かれる。事件の行方もスリリングだ。警察小説の人気シリーズを多く持つ著者らしい、引きの強いエンタメである。
が、話はそこにとどまらない。物語は今の新聞社に内在する問題にも深く切り込んでいく。それこそが本書のテーマだ。
ある記者が言う。
「今更、新聞の信頼を取り戻すのは難しいかもしれない。俺は、一番の原因は、権力に対する真っ当な批判がなくなったことじゃないかと思うんです」
自らも新聞記者だった著者による、今の新聞メディアへの警鐘である。批判である。祈りである。
作中、組織の中から協力者や内部告発者が現れるのは、良心と矜持(きょうじ)が残っている人を描きたかったからだろう。これもまた祈りだ。
心に刺さる。背筋が伸びる。著者のデビュー20周年に相応(ふさわ)しい力作である。
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どうば・しゅんいち 1963年生まれ。2001年に『8年』でデビュー。2013年に読売新聞社を退社し、専業作家に。