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広井良典さん「無と意識の人類史」インタビュー 危機の時代の解決への道標、「地球倫理」が支えに

京都大学教授(公共政策・科学哲学)・広井良典さん

 気候変動に新型コロナ。人類は大きな危機に直面している。解決への道標を分野を超えた立場から差し出した。「中2病と言われるような頃から自分の中で問うてきたものが、紆余(うよ)曲折を経て一つにまとまりました」。還暦が探究の節目になった。

 近年、宇宙や地球、生命の歴史を超長期でとらえるビッグヒストリーへの関心が高まっている。提唱者である歴史家のデイヴィッド・クリスチャンの業績を評価しつつ、「もの足りなさ」も感じてきた。事実に即した記述が中心で、歴史の構造が見えにくいからだ。一方で、強いインパクトを受けたのが、死と再生をモチーフにした手塚治虫の『火の鳥』だった。「私たちはどこから来て、どこへ向かうのか、という問いが、これだけ鮮やかに表現されている作品は他にない」。古本屋で全巻セットで安売りしているのを偶然見つけ、一気に読んだという。

 本書では、人口や経済が拡大した後、新たな思想が生まれ、落ち着く(定常化する)サイクルを人類史の構造として示した。現在、産業社会が地球環境の制約を受け、人類史上3度目の定常化の局面にあるとみる。「定常という言葉から、退屈な社会がイメージされがちですが、実は創造的な時代です」。その支えとなる思想を「地球倫理」と呼ぶ。SDGs(持続可能な開発目標)とも重なるが、鎮守の森や八百万(やおよろず)の神といった自然信仰の見直しを説く点に特徴があるだろう。

 不動に見える巨岩に大きなエネルギーを感じたこと、高齢の母親に訪れた変化、「無」に着目する最近の物理学――。そうした体験や知見から、生と死、有と無は共存するものだと確信した。個人の生と人類の生存が重なり合う世界観に突破口を見つけた手応えがある。「本質的な問題は割とシンプルなんです」(文・吉川一樹 写真は本人提供)=朝日新聞2021年6月26日掲載