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【ブックマちゃん】夢枕獏『白鯨 MOBY-DICK』でおしゃべり これなら読める新しい「翻訳」のかたち

(写真左から)あくにゃん、めがねちゃん、加藤修さん、すあまちゃん

>【ブックマちゃん】夢枕獏『白鯨 MOBY-DICK』の回を動画で見る

好書好日編集長の気になる一冊は

全員:はじまりました、ブックマちゃん。

あくにゃん:あくにゃんです。

めがね:みんなの心丸見え、めがねです。

すあま:中根すあまです。

加藤:好書好日のカトシューです!

MC3人:わーーー! キャッチー!(拍手)

めがね:今回はカトシューさんに最近気になった本を教えていただこうと思っておりまして。

加藤:夢枕獏さんの『白鯨MOBY-DICK』です。

あくにゃん:大和田獏さんしか知らないよね。

めがね:井手上漠しかわかんない。

加藤:野村萬斎さんが出た(映画の)「陰陽師」は?

めがね:陰陽師はわかります!

加藤:その原作者です。漫画「刃牙」シリーズを描いている板垣恵介さんの『餓狼伝』の原作者でもあります。獏さんは『餓狼伝』とか「魔獣狩り」シリーズのような格闘技小説と、「陰陽師」シリーズのような歴史小説をデビュー以来ずっと書き続けています。今回の『白鯨』では、獏さんの趣味の釣りが生きています。獏さんは以前、ロシアの巨大な沼に潜む秘密の魚を釣りに行ったこともあって(笑)。

めがね:「クレイジージャーニー」みたい!

夢枕獏さんの釣りへの情熱が結集

加藤:獏さんは『大江戸釣客伝』という江戸時代の釣り名人を描いた小説も書かれていて、これまでの釣りに対する情熱が全部結集したのが『白鯨』です。話としては、土佐で漁師の次男として育った万次郎という少年が、漁の最中に遭難してアメリカの捕鯨船に救出される。そこにはエイハブ船長がいて、片足を巨大な白い鯨に食われている。その鯨を仕留めるという執念が強く、まわりが止めにはいっても聞かない。そのモービィ・ディック(白鯨)をいかに追っていくか、という物語ですね。

すあま:その鯨には捕まえたいと思わせる何かがあるんですよね、きっと。

加藤:白い鯨を神の象徴ととるのか、など様々な議論がありますよね。「白鯨」といえば、アメリカ文学を代表するハーマン・メルヴィルの『白鯨』っていう小説があるんですね。僕も実は学生時代に何度かトライして、挫折してる。読めないんですよ。

すあま:どういう読めなさですか?

加藤:面白さに乗っていけない。これはキリスト教への深い理解がないと読めないんじゃないか、っていうトラウマになっていました。獏さん自身もメルヴィルの『白鯨』を子どもの頃に読んだけど、それを小説にできなかったと振り返っています。70歳近くになって初めて、小説家の筋力をもって立ち向かえたのがこの作品です。メルヴィルの『白鯨』をなぞって、そのまま書いたら面白くない。日本人の琴線に触れるようにどうしたらいいか、という獏さんの工夫として、捕鯨船にジョン・万次郎がたまたま救われたという設定があります。史実ではないんだけど、この補助線を一本を引くことでがらりと変わる。鯨に向かっていく情熱が、ジョン・万次郎を通すと日本人の私たちにもこんなにわかるんだ! というような。もしかしたらこれは、モービィ・ディックを獏さんなりに翻訳したのかもしれないですね。

あくにゃん:元の『白鯨』を知ってて読むと、おかしなことにはならないんですか?

加藤:ならないですね。こうするのか、っていう解釈みたいなのがあって。

すあま:獏さんが釣りが好きって聞いて、食べる方の釣りを想像してたけど、そうじゃなくてもっと何か珍しい生き物を釣りたい、みたいなニュアンスなんですかね。その気持ちが投影されてるのかなって思いました。