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「最終飛行」書評 言葉だけでは…行動重視を貫く

評者: 大矢博子 / 朝⽇新聞掲載:2021年07月03日
最終飛行 著者:佐藤 賢一 出版社:文藝春秋 ジャンル:小説

ISBN: 9784163913728
発売⽇: 2021/05/27
サイズ: 20cm/524p

「星の王子さま」の作者、サン=テグジュペリは作家であり、飛行士だった。ナチス占領下、武器を積まず、自分が傷つけられる危険だけを背負いながら飛ぶ偵察飛行を繰り返すが−。『オ…

「最終飛行」 [著]佐藤賢一

 読み終わってすぐ、いてもたってもいられず『星の王子さま』を再読した。驚いた。よく知っていたはずの物語なのに、その一言一句がかつてないほど深く胸に刺さったのだ。
 本書の主人公はサン・テグジュペリ。『星の王子さま』の著者にして、フランスの飛行士である。偵察機に乗っていた第二次大戦初期はまだ『星の王子さま』の執筆前だが、すでに『夜間飛行』や『人間の土地』などで一廉(ひとかど)の作家として名を知られていた。
 ナチスドイツによってパリが占領されると彼はアメリカに亡命して、アメリカ参戦を唱える。対独融和派と徹底抗戦派が対立するフランスの実情を見て、大切なのはフランスを救うことであってフランス人同士が争うことではないと考えたからだ。だがどちらの派閥にもつかなかった彼は、結局両派から攻撃されるようになってしまう。
 なぜこの気持ちが伝わらないのか。その思いを込めて書き上げたのが『星の王子さま』なのだ。
 ――そう書くと、純粋な理想主義者のように思えるが、本書のサン・テグジュペリは女好きだしわがままだし我慢がきかないし、実に困った人物でもある。周囲に迷惑をかけ、呆(あき)れられながらも彼は何度も言う。言葉だけではだめだ、行動しなくてはだめなんだと。佐藤賢一の筆は、女性にも仕事にも思想にも行動重視のサン・テグジュペリという人物を実に生き生きと浮かび上がらせる。
 フランスに戻り、周囲から止められても偵察飛行を繰り返したのもその信念ゆえだ。そしてその飛行中に消息を絶つ。これは、決して高邁(こうまい)な聖人ではないひとりの情熱的な飛行士兼作家が、自らの信念を貫こうとする物語なのである。
 本人の記録が存在しない最後のフライトの描写は著者の推理によるものだが、史料が精査され、説得力があると同時にドラマティックだ。『星の王子さま』のラストが重なって見えた。
    ◇
さとう・けんいち 1968年生まれ。1999年に『王妃の離婚』で直木賞。2020年に『ナポレオン』で司馬遼太郎賞。