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「わたしの幸せな結婚」顎木あくみさんインタビュー 累計300万部、和風シンデレラストーリーに胸キュン!

イラスト/月岡月穂

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歴史ファンタジーが愛読書だった

——本作がデビュー作ですが、顎木さんが小説家を目指したのはいつ頃からだったのですか。

 これまで明確に小説家になろうと思ったことはないのですが、お話を考えるのが楽しいと思い始めたのは小学生くらいだったと思います。国語の授業で、絵や写真を見て物語を考えるということをやったときに、「物語を書くっておもしろいな」と思いました。

 自分で何かを書きたいという気持ちが出てきたのは中学生になってからだと思います。当時から好きだったファンタジーっぽいものをノートに書いて、仲の良い友達に見せていましたね。「おもしろいよ」とか「続きが気になる」って言ってもらえてうれしかったです。

——その頃読んでいた本や、影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか?

 読書は元々好きで、小学校高学年の頃は中国風異世界を舞台にした『十二国記』(作:小野不由美)や、『彩雲国物語』(作:雪乃紗衣)、『アルスラーン戦記』(作:田中芳樹)を熟読していました。歴史ファンタジー作品を読むことが多かったですね。この3作品は、どれもキャラクターが個性的に描かれていて、大河的な要素もあり、架空の世界だけど歴史書の一部分を見ているようなところがおもしろくて、よく読んでいました。

 ファンタジーを読んでいると、その世界に行きたいなとは思わないのですが、自分のいる世界とは全く違う世界に憧れますし、他の方が書いたものを読んで、「私ならこの世界にこういうキャラを入れたい」という発想がわいてきたりすることもありました。

——特に影響を受けた作品はありますか?

 『わたしの幸せな結婚』を書くにあたって直接影響を受けているなと思ったのは、中学の時に読んでいた荻原規子さんの『RDG レッドデータガール』や、香月日輪さんの『妖怪アパートの幽雅な日常』です。普通の人が学校に行ったり生活したり、普通に生活しているんですけど、その裏で実はちょっと不思議な能力を持っている、みたいなストーリーにすごく惹かれました。

変われるチャンスは自分でつかむ

イラスト/月岡月穂

——本作の主人公・美世は、継母や妹に虐げられ、使用人のように扱われていた生い立ちのせいで、相手の顔色を伺う癖が染みつき、 他人が自分の振る舞いに言及すると自動的に謝ってしまう性格です。

 この作品を自分で客観的に見ると、どんなに苦しい環境で過ごしていても、どこかで変われるきっかけはきっとあるんじゃないかなとすごく思います。そのチャンスをものにできるかどうかはその人次第なので、なんでもかんでも人任せ、ということだけにはならないようにすることが大事だと思います。

——そんな自己否定感の強い美世の姿に、自分を当てはめて読む方も少なくないと思いました。自分を卑下してしまう、自分には価値がないと思っている人に、何かアドバイスやメッセージがあれば教えてください。

 私自身も、一人で原稿と向き合っていると「こんなの誰も読んでくれない」と思ってしまうことがよくあるので(苦笑)、あまりアドバイスできるようなことはないのですが、自己表現をすることは大事だなと思います。

 私の場合は、ウジウジし始めたらそれを誰かに聞いてもらったり、作品にして世に出したり、自分がモヤモヤしていることを何かに書き出したりしてもいいんですけど、すると少し自分を客観的に見ることができて「もしかしたら私はそんなにダメじゃないかも」と思えるんですよね。

——美世と清霞、お互い好意は感じているものの、言葉や態度にうまく出せない“両片思い”状態から、少しずつ距離が縮まって、その気持ちが「愛情」だと分かってからは徐々に自分の気持ちを相手に伝え始めています。

 美世も清霞も、最初の頃は少し人間性が未熟というか、「恋愛」というところまでいけないような精神状態だったんです。そこを恋愛という形に持っていけるように、人間としての成長をストーリー展開の中でさせなければいけないと思っていました。

――なかなか進展しない2人のじれったい恋愛が切なくもあり、キュンキュンします~!

 恋愛をするにしても、自分が相手にどう接したらいいかを考えることや、相手への思いやりを持つことができるのも人としての成長があってこそだと思うんです。なので、2人の関係は自然とのんびりペースになりました。

 特に美世は、清霞の家に来たばかりの時は自分のことで精いっぱいだったので、相手がどう思っているのかまで考えられる心の余裕がない状態で、清霞への気持ちが「愛」だという感情までたどり着くには、やはり時間がかかるのかなと思いました。

——美世も人と関わることが増えたことで、自分の思いを伝えることが出来たり、誰かのために行動できるようになったりと、少しずつ成長していますね。

 物語の最初の方ではあまりそういう感じはしないのですが、元々美世は割と気が強く、 ものをはっきり言うところがあって、芯の強い女性という設定にしていたんです。実は自分でも気づいていないけど、「あの時はこういうことが言いたかった」というのがだんだん自分自身でも見えてくるところが、今の成長に一役買っていると思います。

——人が成長する過程で、どんなことが大切だと思われますか。

 自分以外の他人と関わることは大事ですよね。美世は小学校に通っていた時以外は、外の人との関わりはほとんどなく、周囲の人たちから否定され続けて「自分はダメだ」としか思えない状態だったので、そこで時が止まっているような感じなんですね。なので、他人と関わることで自分のことが見えてくる、といったことはあるかなと思います。

異能の要素は「ドラマのスパイス」

——鬼や霊などが見える「見鬼の才」といった「異能」を本作でも取り入れていますが、こういったファンタジー要素の魅力はどんなところでしょうか。

 「異能の要素はいらなかったんじゃない」というご意見もあるのですが、私はドラマのスパイスになると思っています。普通に恋愛だけでもおもしろいことはおもしろいのですけど、ファンタジーを含まない明治・大正を舞台としたラブロマンス的な作品って『はいからさんが通る』(作:大和和紀)のようなすごい作品がすでにたくさんあるじゃないですか。私はライトノベルを結構読んできたので、アクションや不思議な力で派手な演出、といったものも物語に入っていたらおもしろいんじゃないという思いがありました。

「わたしの幸せな結婚」コミカライズ版(撮影:根津香菜子)

——ファンタジーが好きな人、ラブロマンスが好きな人、と色々な角度から入り込める作品ですよね。そして、本作はコミカライズや朗読劇など、様々な形で広がっています。

 自分の書いたものが、色々な人の手で様々なメディアミックスされることによって、作品の違う面や、自分では気付いていなかった物語の奥深さみたいなものが見えてきますね。

——春には2人の結婚が控えているはず……ですが、まだまだ解決しなければいけない問題や乗り越えなければいけない壁がありそうです。最新刊の5巻ではどんなエピソードが書かれているのでしょうか。

 5巻では、美世を狙う異能信教の動きが活発になってきて、緊迫感が続く内容になっています。そして、美世と清霞の関係性も、ちょっと変わる? 変わりそう? みたいな胸キュンシーンも書いたつもりなので、これからの展開を楽しみにしていていただければと思います。