芥川賞、「独創性」と「日本語の問い直し」評価
芥川賞は受賞2作の評価が高く、「ほかの3作を引き離してリードしていた」と選考委員の松浦寿輝さんが語った。石沢さんの受賞が先に決まり、李さんを同時受賞とするかで採決した結果、2作受賞が決まった。
「貝に続く場所にて」はドイツを舞台に、東日本大震災の記憶をコロナ禍の風景に重ねて描く。「街が徐々に現実とも非現実ともつかない空間に変貌(へんぼう)してゆき、そこから記憶とその発掘というテーマが浮かびあがる。たいへん独創的なアプローチで震災に向かいあった」と評価された。
同時受賞の「彼岸花が咲く島」は、独特の言語が話される架空の島を舞台にした寓話(ぐうわ)小説だ。「現代の日本語とはちがう三つの言葉を織り交ぜて、日本語の概念そのものを問い直すような作品」。李さんは日本語を母語としない2人目の芥川賞作家となった。
直木賞、「壮大さ」と「熟練技」拮抗
一方で、直木賞は「3時間にわたる大変な激論だった」と選考委員の林真理子さんが明かした。最初の投票で3作に絞られ、議論のあと再び投票した結果、佐藤さんと澤田さんが過半数に達し同点に。「これだけ拮抗(きっこう)したものの一つを落とすことはできない」と、2作受賞が決まった。
「テスカトリポカ」はメキシコの古代アステカ神話と日本の川崎市をつなぐノワール小説。題材となった子どもの臓器売買や残虐なシーンの多さに否定的な意見もあったが、「これだけスケールの大きな小説を受賞作にしないことはあまりにも惜しい」と決まった。
同じく受賞作となった「星落ちて、なお」は幕末明治に活躍した絵師、河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の娘が主人公の歴史時代小説。澤田さんは5度目の候補入りで、「天才の狂気を持つ父親の後を継いだ女性の思いが、淡々とした文章に込められていた。熟練の技で、これだけのものを書き上げる技量はすばらしい」と評価された。
前回と同じく緊急事態宣言下の選考会となり、選考委員各9人のうち、芥川賞は4人、直木賞は2人がオンライン参加となった。(山崎聡)=朝日新聞2021年7月21日掲載