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辻田真佐憲さん「超空気支配社会」インタビュー SNS時代こそ総合知を

辻田真佐憲さん=伊ケ崎忍撮影

 東京五輪まっただ中の今月初め、都内でアクリル板越しに「五輪は全く見ていないですね」とさらりと答えた。利権にまみれた五輪には否定的な立場。ツイッターでもそのような発言をし、以前はおおむね「いいね」という反応だったのが、開幕した途端クソリプ(不快なリプライ)がつくようになったという。「日本人は祭りに弱い。ほんとに1日で空気が変わりました」と驚く。

 本書は主にウェブメディアでつづった時事評論をまとめたもの。安倍・菅両政権、コロナ禍そして五輪を見つめ、SNS時代の世論と向き合った。政権批判をすることから「左」とみられがちだが、本人は「右でも左でもない」是々非々の構えを心がけている。「望まれることを言い続けるゲームに参加するのではなく、どっちつかずの状態で言論人としての自由を持ち続けたい」

 在野の研究者として軍歌やプロパガンダ、大本営発表、検閲など戦前戦中の日本をテーマに著作を出してきた。歴史修正主義への批判も求められてきたが、「ファクトチェックだけでは現実は全く動かない。よりまともな物語で上書きしていく必要があると思うようになりました」。質の高い歴史の見取り図を、多様なメディアで示せれば、と模索する。

 強調するのは、そうした見取り図を描く「総合知」の大切さだ。「新しい歴史教科書をつくる会」の動きが注目を集めた中高生の頃から総合雑誌に親しみ、専門家と素人をつなぐ知に触れてきた。いまはコロナ禍で加速したリモート文化が気がかりだという。「便利だし全部リモートでいいんじゃない、となると、やっぱり知はやせ細るし、上っ面の揚げ足取りが知の形になってしまう。人と会い、会合の後に雑談することこそが総合知を養うんです」。声のトーンが上がり、柔らかい表情がのぞいた。(文・吉川一樹 写真・伊ケ崎忍)=朝日新聞2021年8月21日掲載