今年6月、アメリカ政府がUFO(未確認飛行物体)に関する情報を公開した。このニュースは、世間ではさほど話題にならなかったようである。これまでにもアメリカは墜落したUFOを保管しているとか、宇宙人とすでにコンタクトしているとか、嘘(うそ)か本当かわからない噂(うわさ)が広まっていたが、そうはいっても心の底では嘘と決めつけていた自分がいた。アメリカ政府がまともにUFOの存在を信じているとは思っていなかったのである。ところが、公開されたUFOの映像は本物と発表したから驚いた。
え、本物なの?
詳しい話を知りたいが、ニュースでも雑誌でも掘り下げているところがない。かつてUFOといえば全子どもの重大関心事項であったのに、この無関心はいったいどういうことだ、と腹立たしく思ったそのとき、ハッと閃(ひらめ)いた。「ムー」があるじゃないか。「ムー」は何て言ってる。
「ムー」は、UFOに限らず、UMA(未確認動物)や超能力、怪奇現象や古代文明といったミステリアスな話題を扱うスーパー・ミステリー・マガジンである。若い頃はたまに読んでいたが、大人になるにつれ関心を失い、UFOにしても雪男にしてもそれこそムー大陸などにしても、まあ話としては面白いけどね、と距離を置くようになっていった。だって宇宙人なんて全然やってこないし、超能力だって実際この目で見たことないし、あるかどうかもわからないものに、いつまでもうつつを抜かしていられないでしょ、と。
思えば昭和の頃は「謎」とか「不思議」といった言葉がとても刺激的に感じられた。本やテレビも、そんなタイトルをつけて煽(あお)ることが多かった気がする。しかし今や「謎」や「不思議」は魅力あるコンテンツではなくなったようだ。今回のニュースも、考えてみれば凄(すご)い話なのに、世間はすっかりスルー。なんという変わりようだろう。われわれはいま一度原点にたち戻ってみるべきではないか。
不思議なものを不思議がること、その正体を知ろうとすること、その点で「ムー」は昔から全然ぶれていない。最新号はまさに今回の衝撃ニュースの特集であった。他にもインカ帝国を築いたのは日本人だった説とか、ビッグフット(いわゆる雪男)伝説の検証とか、信州の妖怪や奇妙な現象について書かれた江戸時代の地誌など謎と不思議の記事が満載。眉唾(まゆつば)? 牽強付会(けんきょうふかい)? なんとでも言うがいい。なにしろUFOは実在したのだ。これって大事件だよね。ねえ、聞いてる?=朝日新聞2021年9月1日掲載