第165回芥川賞・直木賞の贈呈式が8月27日、都内で開かれた。受賞者の言葉を紹介する。
まずは芥川賞の2人。東日本大震災の記憶を巡るデビュー作『貝に続く場所にて』(講談社)で受賞した石沢麻依さんは、「震災は決して過去とはなっていない。絶望という感情、あるいは深い行くあてのない思いは自分の中でぐるぐる循環し続ける」と話した。
『彼岸花(ひがんばな)が咲く島』(文芸春秋)で日本語を母語としない2人目の受賞者となった李琴峰(りことみ)さんは、受賞決定後に、SNS上などで誹謗(ひぼう)中傷があったと明かし、「私を傷つけ、黙らせることを目的とする暴言の数々は、しかし皮肉にも、私が『彼岸花が咲く島』の中で表している現代への危機感をリアルな形で裏付ける結果となった」と語った。
澤田瞳子さん「私のN賞たちに恩返し」
続いては直木賞の2人。アステカ王国の神話を交えて臓器密売を描いた『テスカトリポカ』(KADOKAWA)で受賞した佐藤究(きわむ)さんは、今年がアステカ王国の滅亡から500年であることにふれた。「これまであった何かが滅びない保証は何もない、ということをアステカ王国の人々に教えてもらった」
『星落ちて、なお』(文芸春秋)で受賞した澤田瞳子さんは5回目の候補入りだった。これまで受賞した中山義秀文学賞、新田次郎文学賞にふれ「心の中で、私は私なりの『N賞』があるもんねと思っていた。これまでのN賞たちにようやく恩返しができた」と話した。(興野優平)=朝日新聞2021年9月1日掲載