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中島京子さん「やさしい猫」インタビュー 入管行政という重いテーマを読みやすく

中島京子さん

 女子高校生のマヤちゃんが物語の語り手。彼女の母でシングルマザーのミユキさんが、年下のスリランカ人クマさんと恋に落ち、やがて3人は家族になる。ところがクマさんは不手際でビザの更新ができず、不法残留で東京入国管理局に収容されてしまう。

 入管行政という重いテーマを、とても読みやすい家族小説として差し出した。その手腕が見事だ。

 数年前、知人の弁護士のSNS上の投稿で、入管の長期収容で自殺したり病死したりする人がいることを知った。体調を崩しても「詐病」と疑われ、医者にもかかれない。

 そもそも、人の自由を奪う収容の判断が、司法機関ではない入管職員の裁量で行われてしまう矛盾。「こんなことが自分の国で起きていたことに衝撃を受けた」。書かない選択肢はなかった。

 小説として大切にしたのは、義父と離ればなれになってしまうマヤちゃんを「友達のような、身近な存在と感じてもらうこと」。政治的主張ではなく、普通の人の良心に訴えることに腐心した。

 取材を綿密に重ね、リアリズムでテーマに向き合った。支援に携わる弁護士や元入管職員らから何度も話を聞き、収容されている方々にも面会した。折から、名古屋入管に長期収容され3月に亡くなったスリランカ人のウィシュマさんの事件を通して、多くの人が入管行政の実態を知ることになった。

 今年は東京オリンピックで不祥事が相次ぎ、コロナ対策でも命の軽視が目立つ。「すべての人が大切にされるべき個人であるというのが人権。それを大事にしてこなかったこの国の問題があちこちで噴出した」。振り返った時、これが変化の節目だったと言えるよう、怒りの声を上げ続けることが大切だと感じている。(文・板垣麻衣子 写真は中央公論新社提供)=朝日新聞2021年9月18日掲載