飛行機のクルー(キャビンアテンダント)と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか? スーツケースを引いて颯爽と歩く姿、乗客を出迎えるきらきらした笑顔に優雅な立ち振る舞い……。ドラマなどでも度々描かれる、華やかさの裏側にあるリアルな空の世界を『CREWでございます! スチュワーデスお仕事日記』(御前モカ、秋田書店)からご紹介します。
元クルーで作者の御前さんによると、実は空の上は戦場、クルーは「時間制限」と戦う戦士なのだとか。忙しさのあまり食事時間をとれないのは日常茶飯事。いざという時に乗客を守るため、空腹では役に立たないからと、カレーやナッツ類を飲み込むこともあるのだそうです。
乗客への食事の提供・回収は時間との戦いの代表例です。突然の揺れなど地上とは異なる条件の中で、時には頼まれた用事をこなしながら、60~80キロの重さのカートを押して食事のサービスを提供します。機内食は温めたカレーや肉料理などの主食1食とサラダやフルーツなどの冷たい副菜数品からなることが多く、温めなど簡単な調理も行っています。地上で数を確認したにも関わらず、何度数えても1食足りず、結局重なっていたなど冷や汗をかくこともしばしば。また、約180度もある鉄板で火傷しても、冷やす時間さえも惜しいと業務を続行し、やけど跡を名誉の負傷や勲章と自慢にしているクルーも多いのだそうです。
チームを組む担当クルーの力量も、時間との戦いに密に関わってきます。ベテラン同士ではアイコンタクトやあうんの呼吸で「あれ取って」「ラジャー!」と息の合ったチームプレーを発揮できますが、メンバーがヒヨコ(新人)だけとなると1から100までを伝える必要があり、もどかしいことも。特にベテランは時間制限に焦るあまり、麺つゆやドレッシング、コーヒーなどの返り汁を浴びてしまうこともしょっちゅうなのだとか。ベテランとヒヨコは例えると、完全武装した武士と丸腰の武士ぐらいの戦力の差になるのだそうです。
クルーは、機内食や新聞、雑誌、毛布の配布・回収、免税品の販売など乗客の搭乗から到着まで様々な業務を行いますが、決められたサービスをただ行っているだけではありません。目的地の変更(ダイバート)のようなトラブルが発生した場合、長時間飛行に加え数時間も飲まず食わず・・・・・・のような事態を避けるため、わずかに余っている食材やドリンクからアイデアを絞り、乗客をリラックスさせ、不安を減らす工夫など機転を利かせます。また、事前に揺れの発生が知らされた時には、安全に配慮してサービスを組み直すなど柔軟に対応しています。
クルーにはもちろん、機内の安全確保や非常時の誘導、急病人への救急処置にも対応する保安要員としての役割もあります。笑顔の裏側では、天候、客況、飛行状況、担当クルーの力量や効率性を考慮し、日々格闘しながら快適な空の旅を演出しているのです。
「CREWでございます! 」で知る、クルーあるある!?
- 機内アナウンスは適切なタイミングがあるため、モタモタいていると別のクルーが担当してくれるがそのあと気まずさが残る
- クルー用の食事は乗客と同じことが多く、同じメニューが続くと飽きてしまうので、うどんと肉とサラダをオーブンでアレンジして焼うどんを作るなど独自のレシピを開発する強者もいる
- 客席に着席するが乗客としてカウントしない「DEAD HEAD CREW」という、乗務前後移動のための業務がある。自社や他社のサービスを乗客目線で受けられメリットがあるが、乗客の目線が気になり気が休まらないことも
- 「クルーバンク」という、クルーが休憩を取るためにベッドが配置された秘密のスペースがある。交代制で次のサービスまで休憩を取るが、湯たんぽを使うのが流行っているらしい