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「アルゴリズムの時代」書評 自分で選んだつもりが選ばされ

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2021年10月16日
アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか 著者:ハンナ・フライ 出版社:文藝春秋 ジャンル:コンピュータ・情報科学読みもの

ISBN: 9784163914220
発売⽇: 2021/08/24
サイズ: 19cm/294p

「アルゴリズムの時代」 [著]ハンナ・フライ

 ユーチューブでかわいいネコの動画チャンネルを見つけた。自分だけの掘り出しものを発見した気分になり、巣ごもり生活のひそかな楽しみに。けれども、しばらくしてそれが超人気コンテンツであることをテレビのニュースで知った。
 ユーチューブの画面に現れる無数の選択肢が、わたし自身の閲覧履歴や嗜好(しこう)を反映していることは承知している。とはいえ、自分の意思で選んだつもりが、実は選ばされていたのかという思いは拭えない。この気味の悪さは何だろう。
 本書を読んで理解した――現代人は検索エンジンのようなアルゴリズムから多くの情報を得ながらも、自分の頭で考えて判断していると思いこみがちなのだということを。そしてそれが選挙に悪用されると何が起きうるのかも。
 アルゴリズムとは何らかの目的を達成するためにつくられた論理的手順のことだ。スマホの地図アプリが目的地への道順だけでなく、到着予想時刻を示してくれるように未来の予測もしてくれる。マーケティングや病気の診断、自動運転など様々な応用が進む。
 むろんいいことばかりではない。示された答えが人間には理解できないこともあるし、海外では裁判や犯罪捜査に利用され、誤認や判断の偏りに起因する被害も起きているという。
 もはやカーナビなしでは運転できない人がいるかもしれない。同じように自動運転が進歩する過程で、私たち自身の運転能力が衰え、とっさの事態に対処できなくなる恐れがある。搭乗者と歩行者のどちらの命を優先すべきかという古くからある課題の解決も容易ではない。
 人工知能やアルゴリズムの現在地を知る格好の書といえる。ただ、紹介される事例のほぼすべてが海外のものだ。日本ではとかくこの手の議論が公になりにくく、実態もよくわからない。いつのまにか犯罪捜査にも使われているとは思いたくもないが……。
    ◇
Hannah Fry 1984年生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン准教授。数理モデルで行動パターンを解析。