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藤巻亮太の旅是好日 音楽を、仲間を、地元を、心から愛す

文・写真:藤巻亮太

オンラインでのフェス開催

 今年も私が主催する野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI」の季節がやってきた。毎年9月末から10月初めの週末に、地元山梨の山中湖交流プラザきららで開催している。しかし去年、今年と新型コロナウイルスの影響を受け、現地での開催を断念した。地元を音楽で盛り上げたい。県外の方に山梨の魅力を知ってほしい。この2つのテーマを柱に始めたフェスなだけに、人を集めることで地元の方に心配や迷惑をかけてしまっては本末転倒となってしまう。スタッフとも協議した末の、苦渋の決断だった。ただ去年と今年の違いは去年はまるまる中止、今年はオンラインで開催できたことだ。

 緊急事態宣言を出せば感染者は減少し、解除すれば第何波という形でまた感染が拡大する。フェスというものは何カ月も、場合によっては1年も前から準備をしているので、ライブ当日のコロナの感染状況を読むのは極めて難しいと感じたこの2年間であった。

 なんとか開催への道筋を見つけられないかと奮闘する中で、山梨県、山中湖村、実際に興行をする側、それぞれの立場を理解できるようになった。県や村は県民、村民の健康や安全を守る使命があり、当然ながら開催には慎重にならざるを得ない。かといって文化芸術に理解がない訳ではなく、純粋に音楽を楽しみにしていてくれたり、応援し期待してくれている声も多く届いた。ゆくゆくは観光やPRに繋がるはずであり、我々もそこに貢献できたらと思っている。

 ただ対話を続ける中で痛感したのは、それぞれの立場を尊重していると結論を出すのに時間がかかってしまうということだ。現地開催に望みをかけるか、オンラインに切り替えるかというジャッジを適切な時期に決断しなければならなかったのだ。去年の秋は感染の状況を見守るだけで受け身に回り、最後は為す術なく中止を決めざるをえなかったが、去年の状況があったからこそ、今年は早い段階で現地での開催を断念してオンラインに切り替えることにした。

選択肢を減らして自由に

 私自身、現地開催へのこだわりが強くあったので後ろ髪を引かれたが、いざオンラインに気持ちを切り替えると迷いがなくなった。もう一度関係各位にオンライン開催への想いを伝え、できる限りの体制作りに着手した。制限のある短い準備期限の中で何ができるか、チームでベストを尽くそうと気持ちを切り替えたのだ。あらゆる選択肢を忍耐強く腹に持っておくこともとても大切なことだが、状況に応じて選択肢を切り捨て、選択した道の中であらゆる可能性に挑戦してゆくこともまた大切なことなのである。腹が決まると一つひとつ行動することを楽しめるようになった。

 当日はオンラインだからこそ転換時間も楽しんでもらえるよう、テレビ山梨の皆様が山梨の映像や美しい山中湖村の四季の移ろいなどの映像を編集し、素敵な映像を作ってくれた。嬉しかったのは出演してくれたアーティストの皆さんがMCで、来年は山中湖で歌いたいと言ってくれたことだ。優しい表情で言ってくれたその言葉は、私にとっては何より嬉しい響きであり、心から励まされた。そして地元開催はできなかったものの、オープニングで山中湖村の高村正一郎村長が、オンラインでの開催を労い、「来年こそは山中湖で」という温かいビデオメッセージを寄せてくれたことも大変嬉しく、励まされた。

「Mt.FUJIMAKI」当日

 フェス当日の10月2日は実際、感染者も驚くほど減少しており、かつ台風一過の見事な晴天であった。これなら現地で開催できたんじゃないかとスタッフやミュージシャンたちと終演後に笑いながら話していたが、そこに後悔の色はひとつもなかった。ただただ心地の良い達成感と、みんなの笑顔がそこにあった。何より大切なのは置かれた状況の中で決断しベストを尽くすことだと実感した。その達成感は次へ向けてのモチベーションと自信になっている。

チック・コリアの言葉

 「Mt.FUJIMAKI ONLINE」が終わって、事務所の社長からいただいた『チック・コリアのA Work In Progress』という本を読み始めた。ジャズピアニストであり作曲家。残念ながら今年2月に79歳でこの世を去った偉大なアメリカのミュージシャンが、自身の音楽家としての歩みの中で感じた大切なことを語ってくれている本なのだが、その言葉全てが心に刺さった。そこには音楽や仲間を心から愛する姿勢が描かれており、何よりも音楽を追求することに対する一切の妥協のなさを感じた。

 私は私の歩む道の中で何が歌えるのであろうか。来年の「Mt.FUJIMAKI」にどんな姿でステージに立っていられるであろうか。新たな問いの中に身を置きながら、2021年も駆け抜けたい。