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「フェンダーVSギブソン」書評 カントリーで普及 新鮮な過去

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2021年10月30日
フェンダーVSギブソン 音楽の未来を変えた挑戦者たち THE BIRTH OF LOUD大きな音はカネになる! 著者:イアン・S.ポート 出版社:DU BOOKS ジャンル:産業

ISBN: 9784866471532
発売⽇: 2021/08/27
サイズ: 19cm/504p

「フェンダーVSギブソン」 [編]イアン・S・ポート

 誰が言ったのだったか、通史が書かれるようになると、その分野の青春期は終わったのだそうだ。そういえば数年前、ギター雑誌のベテラン編集者による大冊『エレクトリック・ギター革命史』(リットーミュージック)が訳出され、エレキギターもついに歴史化したかと思ったものだが、ぐっと若い音楽ライターによる本書は宿縁のライバル史を軸に、むしろ初々しく過去の物語を描き出した。
 ギブソンとフェンダーといえば「レスポール」対「テレキャス」や「ストラト」で人気を二分した米メーカー。しかしヒルビリー奏者で音響マニアのレス・ポールと自分ではギターを弾けないラジオ技術者レオ・フェンダーがもとは同好の友人だった故事をはじめ、初期のエレキギター人気がカントリー音楽で広まった事情なども、改めて読むと新鮮に見えてくる。ロックの時代になってからのジョン・レノンとリッケンバッカー、エリック・クラプトンとギブソン・レスポール等々、ミュージシャンと愛器の因縁話はいまも知られるところだろう。
 面白いのは本書が、ウッドストックのコンサートにフェンダー・ストラトキャスターで現れたジミ・ヘンドリックスの有名なエピソードで思い切りよく本文を締めくくっていることだ。レス・ポールやフェンダーら初期の世代が思いもよらなかった音のひずみを独自に追究したジミヘン以降、エレキの本格的な時代は一気に花開くのだが、その入り口で筆を止めることで本書は逆に、歴史になる前の過去を追体験しているかのようだ。「爆音の誕生」(原題)を直接には知らない若い世代による本書は、いわばこうして、過ぎ去った時代を生き直そうと試みているのだともいえるだろう。
 ちなみに本書の原型はコロンビア大学創作文芸科の修士論文だという。「文学的ジャーナリズム」の流れを汲(く)むノンフィクションだというあたりに興味を持つ読者もありそうだ。
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Ian S.Port 米サンフランシスコ・ウィークリー紙の音楽欄の編集者を務めた。米各誌に寄稿。