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「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」 選手が考え、揺るがぬ「個」をつかむ

 ノンフィクションなのに、まるで骨太なミステリー小説を読んでいるかのようだった。

 落合博満。中日ドラゴンズの監督を務めた2004年からの8年間でリーグ優勝4回、日本シリーズには5度進出し、07年には53年ぶりの日本一に輝いた。文句なしの名将だ。

 なのに嫌われた。マスコミに嫌われ、フロントに嫌われた。なぜか。それまで疑問もなく安住していた「当たり前」がひっくり返されたからだ。

 3年間1軍登板のなかった投手を開幕投手に指名する。チームの支柱とも言うべきスター選手を切る。大記録目前の投手を交代させる。日本一と言われた二遊間をコンバートする。そして、その理由を説明しない。メディアと連(つる)まず、情報は隠し、ただ淡々と勝ち続ける――。

 本書は、当時ドラゴンズの番記者だった著者が、落合の行動の裏には何があったのか、それによってドラゴンズというチームがどう変わったかを追ったノンフィクションである。

 前述の謎が解明されていく過程は実に刺戟(しげき)的だし、常人には見えないものが見えていた落合の目にも驚かされる。だがそれ以上に印象深いのは、選手たちが落合のもとで覚醒していく様子だ。落合の言葉は短く、しかもわかりにくい。選手たちはその意味を考え、自問自答を繰り返し、為(な)すべきことを探し当てる。教えられるのではなく自ら掴(つか)んだ選手は、常識に囚(とら)われない「理」と揺るぎない「個」を手に入れる。そんな集団を落合は作り上げたのだ。

 これは決して野球だけの話ではない。組織とは何か、「考える」とはどういうことか、その「常識」に疑うべき点はないのか、読みながら何度も問いを突きつけられた。

 11年、優勝間近という時期に解任が発表されるくだりは、組織人ならずとも刺さるものがあるはずだ。同調圧力と忖度(そんたく)が幅を利かせる現代、この圧倒的な「揺るぎない個」の物語が持つ意味は大きい。=朝日新聞2021年11月6日掲載

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 文芸春秋・2090円=7刷10万部。9月刊。版元によると読者の中心は30代以上の男性。ネットでの売れ行きも好調という。