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「宇宙の終わりに何が起こるのか」書評 最新理論で説く五つのシナリオ

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2021年11月20日
宇宙の終わりに何が起こるのか 著者:ケイティ・マック 出版社:講談社 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784065174791
発売⽇: 2021/09/10
サイズ: 19cm/365p

「宇宙の終わりに何が起こるのか」 [著]ケイティ・マック

 宇宙論は観測データと理論を駆使し、誕生から現在に至る宇宙の進化を解明する学問だ。20世紀末以降、宇宙論は精密科学として長足の進歩を遂げている。
 これに対して宇宙の未来の予言は困難である。天候、経済、政治と同じく、わずかなゆらぎが劇的に異なる結末を引き起こすからだ。ましてや1千億年以上も先の宇宙の最期となると、多種多様の可能性がある。
 本書では、現代宇宙論が予想する五つの宇宙終末シナリオが紹介される。
 現在の膨張が転じて収縮しつぶれて終わる「ビッグクランチ」。永遠の膨張の末すべての活動が停止する「熱的死」。膨張がさらに加速するため時空自体がズタズタに切り裂かれる「ビッグリップ」。より安定な真空状態に落ち着く過程で完全消滅してしまう「真空崩壊」。収縮の最後の瞬間に跳ね返る「ビッグバウンス」の結果、膨張と収縮を繰り返す宇宙版輪廻(りんね)転生。
 どのシナリオも怪しさ満載でホンマかいなと眉に唾(つば)つけられそうだが、我々の未来はそれらのどれかに運命づけられている(多分)。
 未来を予言するには、最新の物理学理論が必要となる。ビッグバンの残光として宇宙を満たす電波、宇宙のインフレーション、加速膨張する宇宙と宇宙定数、ダークマターとダークエネルギー、ブラックホールとエントロピー、標準素粒子模型とヒッグス粒子、時空のさざなみである重力波。現代物理学の主役でもある難しげな概念も、若い著者ならではの軽妙な筆致のおかげで、わかった気にさせてもらえるに違いない。
 残念ながら宇宙の未来はバラ色と言いがたい。とはいえ今から約50億年もすれば地球は膨れ上がった太陽にのみ込まれすでに消滅しているはず。したがって、1千億年以上先の未来に天が落ちてくるのではないかと「杞憂(きゆう)」したところで仕方ない。時間を超越した現代宇宙論の予言を、安らかな気持ちで楽しみつつ堪能するのが良さそうだ。
    ◇
Katie Mack  理論宇宙物理学者。米ノースカロライナ州立大助教。科学コミュニケーターとして知られる。