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「リスクコミュニケーション 標準マニュアル」書評 認識の共有 豊富な事例で指南

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2021年12月04日
リスクコミュニケーション標準マニュアル 「不都合な事実」をどう発信し、理解を得るか 著者:レジーナ・E.ラングレン 出版社:福村出版 ジャンル:社会学

ISBN: 9784571410680
発売⽇: 2021/10/11
サイズ: 26cm/386p

健康、安全、環境のリスクに関するコミュニケーションを実施する人に向けた、アメリカ発のリスクコミュニケーションのハンドブック。基本理論、計画方法、実行に移すためのさまざまな…

「リスクコミュニケーション 標準マニュアル」 [著]R・E・ラングレン、A・H・マクマキン

 ためしに国立国会図書館のサイトで「リスクコミュニケーション」を検索すると本書を含めて730件がヒットした。すっかりおなじみの言葉になり、類似本も多いが、日本で正確に理解され、実践されているとは限らない。相手を納得させるテクニックという誤解やアリバイ作りにやっているとしか思えないケースも見受けられるからだ。
 本書が「人をだますような方法」になりうる例に挙げる相対リスクと絶対リスクの見せ方はその一例だ。
 ある薬を使うと重大な副作用の可能性を50%減らせるとする(相対リスク)。それだけをグラフにすると魅力的な薬に思えるが、そもそも副作用の発生がごくわずかであれば絶対リスクでみればほとんど変わらない。両者を併せて示すのが真のリスクコミュニケーションの姿だが、相対リスクの変化を強調するプレゼンや発表を何度見たことか。
 米国で版を重ねるテキストの真骨頂は豊富な事例と細かい指南にある。
 まるまる一章を割いた「メディアとの協力」はその典型だ。なぜ記者は思ったような記事を書いてくれないのか。なぜ内容を事前に確認させてくれないのか。日ごろ疑問や不満を感じている会見の主催者にこそ読んでほしい。
 思えばこの夏、私たちは根拠に乏しい「安全安心」を何度も聞かされ、記者とのやりとりすら成立しない首相会見を見せられた。本書の内容をごく当たり前に実践していれば、そんなことは起こりようがない。「ノーコメント」という印象のよくない受け答えの言い換えなど、多用されると困るのだが、本書が指摘する報道機関との「文化の違い」は総じて納得できる。
 リスク認識を共有しようとする過程では対立が生じることもある。そんなときには中立的な第三者であるファシリテーターの存在が有効だが、日本では人材が決定的に不足している。スキルを備えた人材の養成が急務に思える。
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Regina E.Lundgren リスクコミュニケーションのコンサルタント▽Andrea H.McMakin セキュリティーなどを研究。