「Invent & Wander」書評 「長期がすべて」預言した起業家
ISBN: 9784478112137
発売⽇: 2021/12/09
サイズ: 21cm/405p
「Invent & Wander」 [寄稿]ジェフ・ベゾス
オンライン市場の覇者、アマゾンを一代で築いたジェフ・ベゾス。希代の起業家で、世界的な影響力をもちながら、その人物像はどこか謎に包まれている。本書はベゾスの文集であり、さまざまな手紙や原稿が集められている。
とりわけ目を惹(ひ)くのは、インターネットが普及しつつあった1997年の株主への手紙「長期がすべて」だ。そこでベゾスは、アマゾンの成功は「私たちが生み出す長期的な株主価値によって測られる」と記している。同社の時価総額が約200兆円の現在、その手紙は預言書のようだ。翌年からの手紙には事業の急速な拡大が記されているが、そこでもベゾスは「長期がすべて」を強調する。そして株主に莫大(ばくだい)な先行投資への理解を求める。客が要望するより早く、次々と新サービスを開発していく。
ベゾスはコスト改善と値下げを推し進める。値上げの方が、値下げより利益率が高いというデータがあってもだ。スケールメリットやキャッシュへの好影響を考えると、値下げは顧客のみならず、株主の長期的な利益になると判断するからだ。客観的なデータ分析は大切だが、イノベーションには主観的な判断の力が重要だとベゾスはいう。
リーダーの仕事は重要な問題に優れた判断をすることだ。だからベゾスは十分な睡眠時間をとる。よく寝ると、よく考えられるようになり、よい判断ができるからだ。そうした彼の判断の一つに2013年の、ワシントン・ポストの買収がある。当時この新聞社の売り上げは激減していたが、民主主義に大切な役割を果たしていると考えてのことであった。孫やその孫の世代への影響をもベゾスは考えており、いまは宇宙事業にも力を注いでいる。
アマゾン初期の仕事場は、ベゾスの自宅の車庫であった。当時彼は自分で商品の箱詰めまでしていた。ベゾスの言う「大きなことも小さくはじまる」には特別な凄(すご)みがある。
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Jeff Bezos 1964年生まれ。アマゾン創業者、元CEO。宇宙開発企業「ブルーオリジン」の創業者でもある。