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芥川賞・直木賞 講評でたどる選考過程

(左から)直木賞に決まった米澤穂信さん、今村翔吾さん、芥川賞に決まった砂川文次さん=19日午後、東京都千代田区

緻密に描かれた描写の的確さ

 芥川賞の「ブラックボックス」は、自衛隊を辞めた自転車便のメッセンジャーが主人公。選考委員を代表して講評した奥泉光さんは「緻密(ちみつ)に描かれた描写の的確さが評価された」と話した。

 次いで評価が高かったのが、九段理江さんの「Schoolgirl」(文学界12月号)。太宰治「女生徒」を通じて、わかりあえない母と娘の微妙な距離感を描く。「2作受賞の可能性もあった」と奥泉さん。「題材は古いけれど、新しい描き方だ」という評価があったが「小説としては問題の入り口にしか達していない」とする声があり、次点にとどまった。

 3番手は石田夏穂さんの「我が友、スミス」(すばる11月号)。主人公の女性がボディービルに目覚めてゆく「筋肉文学」だ。読み物としての面白さに一定の評価があったが、文学的な深みを欠くという意見もあったという。

 芥川賞は、純文学作家の登竜門とされる。奥泉さんは若手作家に向けて、「若い人は自分の文業が(賞の候補になるかどうかで)左右されると思うけれども、気にしても始まらない。本当に面白いと思うものを書き続けていくことしかない」と語った。

3作で決選、受賞の2作「拮抗」

 直木賞の2作は、どちらも戦国の世を舞台にした歴史・時代小説。選考委員を代表して浅田次郎さんが「高水準だった」と振り返った。

 石工と鉄砲鍛冶(かじ)の頂上決戦を描いた『塞王の楯』については、「熱量が高い力強い小説。とても楽しいエンタメになっている」と話した。幽閉された黒田官兵衛が安楽椅子探偵となる『黒牢城』は、「せりふの巧みさを評価する声があった」という。

 最初の投票では、逢坂冬馬さんのデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)も評価が高く、上位3作で決選投票を行った。『同志少女よ、敵を撃て』については「ややリアリズムに欠ける」という否定的な意見もあった一方、『塞王の楯』と『黒牢城』は「全く拮抗(きっこう)していた」ため、多くの選考委員から「2作の同時受賞で良いのではないか」という声が上がったという。(興野優平)=朝日新聞2022年1月26日掲載