ISBN: 9784828423487
発売⽇: 2021/11/20
サイズ: 19cm/239p
「消えた球団 1950年の西日本パイレーツ」 [著]塩田芳久
オールド野球ファンを自任する私は、ビジネス社の「消えた球団」シリーズの俎上(そじょう)に載った毎日オリオンズも高橋ユニオンズもちゃんと知っている。しかし、西日本パイレーツについては、恥ずかしながら名前すら聞いたことがなかった。
1950年に1年だけ存在した球団の歴史を発掘したのは、親会社だった西日本新聞社の塩田芳久さん。後継球団である埼玉西武ライオンズの本拠には西鉄や太平洋クラブ、クラウンライター時代の旗が並ぶが、西日本の旗はない。私が知らなくても、恥ずかしくはないのかもしれない。
50年、セ・パ2リーグに分裂したプロ野球は一気に7球団増えた。福岡には西日本と西鉄の2チームが誕生した。当時から球界の盟主だった巨人の意向が強く働いたのだという。しかし西日本には母体となる球団がなく、選手を集めることもままならなかった。
滑り出しは上々だった。プレシーズンの「春の野球祭」ではスター軍団の巨人を撃破して優勝した。福岡市民の期待は頂点に達したが、チームの頂点もここだった。急造チームでは長丁場を戦えない。地元福岡でほとんど試合が出来ず、74泊75日という過酷な遠征もあり、プロ野球史上初の完全試合を食らうなど散々な成績だった。そしてシーズン中から身売り話が出る。
本書によると、球団創設を勧めたのも巨人なら、早々にハシゴをはずしたのも巨人だった。青田昇選手の移籍をめぐる巨人との対立が最終的な引き金になり、西鉄と合併して西日本の名前は消える。青田移籍問題で暗躍したのが鈴木龍二さん。その名を記憶する野球ファンも多いだろう。江川卓投手が「空白の1日」を使って巨人に入団した時のセ・リーグ会長だ。
日本シリーズで野武士軍団の西鉄が3年連続で巨人を下す少し前、両軍にこんな因縁があったとは知らなかった。「神様、仏様、稲尾様」の伝説が、今まで以上に輝いて見えてきた。
◇
しおた・よしひさ 1966年生まれ。西日本新聞社くらし文化部編集委員などを経て同社マルチ情報センター勤務。