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映画「今はちょっと、ついてないだけ」主演の玉山鉄二さんインタビュー 40代が抱える闇に蓋をするか、向き合うか

玉山鉄二さん

リスタートできる世の中に

――撮影前に伊吹有喜さんの原作は読みましたか?

 はい。とてもゆったりとした作品だなと思いました。今、刺激を求める人が多く、抑揚のある、メッセージ性が強い作品が人気を集めているので、最初は映画化に向いているのかなという不安もありました。でも脚本を読んで、演じながら掘り下げていくと、今の時代や社会に対するアンチテーゼを感じて、とても共感できました。

 今の世の中は、作品の登場人物たちのように、リスタートを切ることが難しかったり、セカンドチャンスをもらいにくかったりするように思います。そうすると、保守的に物事を選択したり、無難に仕事をこなすようになったりしてしまう。僕には子どもがいますが、彼らが社会に出た時には、そうじゃない世の中であってほしいという想いもありました。

――今作で玉山さんが演じた立花は、挫折を味わったカメラマンという役どころですが、どんな印象を持ちましたか?

 立花は過去の栄光や失敗を見ないようにしている。彼が抱えている闇みたいなものって、40代を迎えた男性や女性なら誰しも持っているものだと思うんです。その闇に蓋をして見ないようにするのか、ちゃんと向き合うのか。

 僕も、YouTubeとかで偶然、昔の自分を見て、すごく大きく見えたり、力強く感じたり、これ、本当にオレなのかなって思うことがあります。テクニカルな部分や知識で、当時の自分よりは優れているって自信はあるのに、この感覚はなんなんだろうって。それは、自分が変わっただけでなく、世の中のモラルや社会情勢が変化していることも大きいんじゃないのかなと思います。

――立花の風采が上がらない感じ、主役でありながら存在感がないところがいいなと思いました。いつも演じているような役柄とはずいぶん違ったのではないですか?

 そうですね。以前は、芝居に対して足し算ばっかりしていたと思うんですけど、僕もいい感じのおじさんになって(笑)、引き算を覚えてきたのかなと思っています。芝居は、なにかすることも大事だけど、しないことも大事。空気感をいかに出すかとか、そういうことを考えながら演じていました。あとは、立花の闇の部分をどう表現するか。どの作品においても、役作りが一番大事だと思っているので、カメラマンらしい立ち居振る舞いを学んだり、作品のテーマやメッセージを考えながら役作りをしていきました。

©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会

必要なのは余白

――作品の中で、若き日の立花も登場します。玉山さんが演じると思っていたら、別の役者さんだったのが意外でした。

 僕も意外だったんです(笑)。台本には別の人が演じますって書いていないので、現場に入ってちょっとびっくりしました。監督の意図で、僕が昔の自分を本当に自分なのかと思うように、昔と今の自分をわかりやすく、明確にしたかったんじゃないかなと思います。

――印象的なセリフはありますか?

 やっぱり、「今はちょっと、ついてないだけ」とか「ゆっくりでいいんじゃない」とかですね。日本人はすごく真面目だから、失敗したり、誰かに迷惑をかけた時に、自分に向き合いすぎるところがある。状況が悪かったり、他の人が原因であることもあるのに、自分に向き合い過ぎて自分が潰れちゃったり、自信をなくしてしまうことが多いと思うんです。

 そういう中で、「今はちょっと、ついてないだけ」というのは、自分を甘やかすことができる、すごくいい言葉だなと思います。自分に余白を作ってくれる。余白がないと人は冒険できないと思うんです。僕も経験がありますが、メンタルが壊れたら修復するのは大変なんですよね。壊れるのは一瞬なのに、回復するのに何年もかかることもある。そうならないためにも、余白は必要だなと思います。

――物語の中心となるのがシェアハウス。立花と同じような悩みを抱えた大人たちが集まり、互いに刺激し合いながら、少しずつ新しい一歩を踏み出していきます。同世代の役者さんが多かったと思いますが、現場はどんな雰囲気でしたか?

 コロナ禍で、一緒に食事に行くこともあまりできませんでしたが、みんないい大人なので、いい意味でお互いにテリトリーに入り過ぎないとか、話している時は相手が話し返せる余白を与えられるとか、作品同様、すごく居心地のいい現場でしたね。世代の若い深川(麻衣)さんと話すときは、言っちゃいけないこと言ったらどうしようとか、緊張しました(笑)。

映画もドラマも観ない

――「心が本当に求めているものを見つけていく」というのが作品のテーマですが、玉山さんがこれからやってみたいことはありますか?

 僕、あんまりないんですよね。そこに関しては、僕自身、臆病なのかもしれないし、余裕がないのかもしれない。最近、YouTubeで自分の趣味を公開している人をたまに見ることがあって、バイクに乗ってみたいなとかはありますけどね。親の「バイクはダメだ」っていう教えの影響で乗ってなかったんですけど、免許取ろうかなぁとか。でも、一歩踏み出す勇気がなかなかない(笑)。仕事も、この役をやってほしいと言われたら、期待値以上のことで返すことを一番に考えているので、自分からこんな役をやってみたいということはないかもしれないですね。

ヘアメイク:城間 健(VOW-VOW)、スタイリスト:袴田能生(juice)、 ジャケット/rito structure(rito77.com)、Tシャツ/VEIN(03-6447-2762)、その他スタイリスト私物

――原作を読まれたということですが、普段、読書はしますか?

 仕事に関する本以外は、全く読まないです。なんでなのかな? 基本的に影響を受けたくないんですよね。芝居のプランやキャラクターを考える時も、先入観とか、今まで自分が目にしてきたセオリーみたいなものに影響されたくない。なるべく、雑念のない状態で、自分の考えたクリエイティブな部分を出せるかを考えています。

 セオリー通りに表現するのは、ベルトコンベアーに乗ってるだけのような気がしてならない。セオリーに対して斜めな見方をして、もっと他の表現はないか考えて構築していくのが僕のやり方です。だから、映画もドラマも観ないし、自分の作品も観ないことが多いです。観ても、自分のメンタルに対して良いことがないって思っちゃう。こうすればよかったとか、全然ダメじゃんって思うばっかりで。観ないことで、自分を甘やかしているのかもしれませんね。