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「国境を超えたウクライナ人」書評 不自由を自由に 魅力的な群像

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2022年04月09日
国境を超えたウクライナ人 著者:オリガ・ホメンコ 出版社:群像社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784910100227
発売⽇:
サイズ: 19cm/140p

旅する自由思想家、20世紀のマルコ・ポーロ…。18〜20世紀、美術、航空技術、医学、外交などの専門性を生かして異郷の地で活躍した人たちと、ウクライナ人に同化してソ連に殺さ…

「国境を超えたウクライナ人」 [著]オリガ・ホメンコ

 この本が出版された後、奇(く)しくも、ロシアの侵略によって、数百万のウクライナ人が国境を越える避難を余儀なくされた。著者も、その一人だという。キーウに生まれて、東京大学で博士号を得た日本研究者だ。
 国境を超えて活躍したウクライナ人たちを紹介するこの本の最後で、著者は、「ウクライナ人にとっての『国境』」を論じている。
 押しつけられた国境に翻弄(ほんろう)される時代が続いた。「私たちは国境を横断しなかった、国境が私たちを横断していた」。それゆえ、不安や緊張感は消えない。
 しかし、そうした厳しい状況にあって、ウクライナ人は、不自由を自由に変えるスキルを育んだという。押しつけられたルールを乗り越え、国境を接触と交流の場に変えた。柔軟性、コミュニケーション力、許容力という特性が養われた。ウクライナ人は、国境に対して、不安と自由という両義的な感情を抱いている。著者はこう結論する。
 語りは平易で、堅苦しさとは無縁だ。本書は、ウクライナの地に生まれた9人の足跡を辿(たど)ったのち、独立を支援したヴァシーリ・ヴィシヴァニイも「ウクライナ人」として紹介している。ティモシー・スナイダーの傑作『赤い大公』を通じても知られる、ハプスブルク家の後裔(こうえい)だ。
 魅力的な人物群像にあって、日本との接点という観点からは、イワン・スヴィットの章が興味深い。
 ロシア極東には19世紀末から多くのウクライナ人が移住し、20世紀初めには、ロシア人を上回る100万人が定住した。民族意識が高まり、「緑のウクライナ」という自治区も構想された。ソ連の支配が及ぶとこれを嫌ったウクライナ人は、さらにハルビンへ移り、この地の「ウクライナ運動」には旧満州の日本軍の支援もあった。スヴィットはこの運動の当事者だ。これらの経緯は、去年出版された岡部芳彦『日本・ウクライナ交流史 1915―1937年』にも詳しい。
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Ольга Хоменко キエフ・モヒラ・ビジネススクール助教授。著書に『ウクライナから愛をこめて』。