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日本のコロナ対策に切り込む「ゲノムに聞け」など佐藤健太郎が選ぶ注目の新書2点

「ゲノムに聞け 最先端のウイルスとワクチンの科学」

 新型コロナに関しては、これまでにも多くの書籍が出版され、やや食傷気味でもある。そうした中に登場した『ゲノムに聞け 最先端のウイルスとワクチンの科学』(文春新書・1078円)は、がん研究の第一人者である中村祐輔氏による一冊。研究者の視点から、日本のコロナ対策に厳しく切り込んでいる。本書でなされている指摘について議論はあろうが、全体として耳を傾けるべき内容が多いと感じる。終章では、ウイルスの変異に効果が左右されない「万能型ワクチン」の可能性について紹介されており、進展に期待したい。
★中村祐輔著 文春新書・1078円

「江戸の宇宙論」

 読書の時くらい憂(う)き世のことは忘れたいという向きには、池内了『江戸の宇宙論』(集英社新書・1034円)はいかがだろうか。江戸時代の蘭学(らんがく)・洋学といえば、『解体新書』などがまず思い浮かぶが、実は天文学の分野でも世界最先端の水準に達していた。圧巻というべきは、豪商の番頭でもあった町人学者山片蟠桃(ばんとう)。一九世紀初頭にまとめられた著書には、地動説やニュートン力学はもちろん、多くの恒星に惑星があり、生命も存在するであろうという予測まで記されている。その該博な知識と科学的姿勢は、驚きの一言だ。

 現代、我々が自国語で物理学を学べるのは、彼らの苦心のおかげだ。改めて先人に感謝したい。
★池内了著 集英社新書・1034円=朝日新聞2022年4月16日掲載