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「道徳教室」書評 問いに立ち止まり、途方に暮れる姿に浮かぶ本質

評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2022年04月30日
道徳教室 いい人じゃなきゃダメですか 著者:高橋 秀実 出版社:ポプラ社 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784591173268
発売⽇: 2022/03/16
サイズ: 19cm/326p

「道徳教室」 [著]高橋秀実

 高橋秀実さんのノンフィクションには、いつも「みんな」というテーマが付きまとう。「みんなと考える」と「みんなで考える」はどう違うのか。あるいは「みんなの意見」とはなんだろう? そんな問いを前に立ち止まり、途方に暮れる自らを描く手法に独自の世界がある。「道徳」をテーマにした本書も、その魅力に満ちた一冊だ。
 学校の授業の現場で児童から「『道徳』はふつう」と言われ、専門家の「道徳はファンタジー」の言葉にはたと悩む。フッサールの言う「間主観」を手掛かりに論考を繰り広げたかと思えば、ホテルのAI(人工知能)とも語り合い……。
 その物事の捉え方には皮肉が利き過ぎる時もあるかもしれない。だけど、本書の読みどころは“取材者がどのように立ち止まったか”という振る舞いの面白さ。畢竟(ひっきょう)、そこから著者が浮かび上がらせるのは、どこまでも不可思議で、堂々巡りしていくこの社会の滑稽さなのだと思った。