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「春はまた巡る」書評 老齢期にたどり着く人生の頂点

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2022年05月14日
春はまた巡る デイヴィッド・ホックニー芸術と人生とこれからを語る 著者:デイヴィッド・ホックニー 出版社:青幻舎インターナショナル ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784861528699
発売⽇: 2022/02/25
サイズ: 24cm/280p

「春はまた巡る」 [著]D・ホックニー、M・ゲイフォード

 「有名人でいるのは嫌だね!」。何が彼をジェフ・クーンズやゲルハルト・リヒター、ダミアン・ハーストと並ぶ有名人として、メディアがこれほどに大騒ぎするのだろうかと、本書の共著者の美術評論家はホックニーについて語る。ホックニー自身は、人気の秘密は自分にはわからないと言いつつ、「私は少々宣伝好きなんだ」。
 彼は現在84才。晩年のピカソは加齢に従って前年よりもっと気づくようになったというが、「今の私がそうだ」とホックニーは言う。彼は世界を旅して気に入った土地でアトリエを持つ。イギリス生まれだが、現在フランスのノルマンディーに新しいアトリエを構えて本書に掲載のiPadのドローイングを制作中。まるでゴブラン織りのような線が生物のように動いて目眩(めまい)がするほどに美しい。
 有名な現代美術家でありながら「モダンアートは嫌いだ」と一線を画しており、最も私淑する画家のピカソ同様「人生の頂点は老齢期にある」とホックニーも同感。目で考え、目で描き、自分を意識しない。そして、そこに長生きの理由があると言う。
 常に有名であったにもかかわらず自分は〈周辺的〉な存在と考え、芸術運動や流行はことごとく避けた。本書ではたびたび彼の名声や外見に触れ、「すぐ彼だとわかるイメージをつくり上げた」というメディアでの有名人ぶりを紹介しつつ、その実態と作品の関連性に個人的にはある種の興味をそそられるが、そのことは本書では論じられない。
 だけど彼の名声はヒューマンインタレストの枠を超えて、彼の突き動かす絵画の魅力と、彼がどのように生きるかということで多くの示唆を与えた結果が、自身の名声と結びついているのだと思う。さらに彼の人生と芸術の源である愛が、画家ホックニーを存在たらしめているのである。
    ◇
David Hockney 1937年生まれ。現代美術家▽Martin Gayford 1952年生まれ。美術評論家。