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「四角六面」書評 好奇心が創造した世界的パズル

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年05月14日
四角六面 キューブとわたし 著者:エルノー・ルービック 出版社:光文社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784334962548
発売⽇: 2022/03/24
サイズ: 20cm/259p

「四角六面」 [著]エルノー・ルービック

 本書の著者はルービックキューブとして知られるシンプルな立体パズルを発明した。1977年、故郷ハンガリーで初めて発売され(当初はマジックキューブという名前であった)、世界的に大人気となった。日本でも1980年に大ブームを巻き起こしたことを記憶している方も多いのではないだろうか。
 発明家の名前を持ち、これほどまでに人気を博した玩具を他に知らない。一方、本書を読むと、著者は目立つことを好まない思索的な人間だということがわかる。そのような人間が、世界的人気玩具を発明したことで、彼自身が想像もしていなかった多くの経験をすることになる。本書はその回想録である。
 この立体パズルは3×3×3の小さな立方体がより大きな立方体を作るという構造を持つ。パズルとしてはこれ以上ないほどにシンプルな形状であるものの、一度動かし始めると、後戻りは困難だ。きれいに揃(そろ)っていた面が数回の回転でバラバラになり、もとに戻せるだろうかという不安が頭を擡(もた)げて来る(実際、私は戻せたためしがない)。芸術カレッジの助講師をしていた著者は、構造体に対しての好奇心からルービックキューブの製作を開始、その過程で動きの複雑性を意図せず「発見」したという。
 本書で語られているのは好奇心が生み出す創造性の大切さだ。受けてきた教育に苦い思い出がある著者は、固定観念やあとから付け加えられた画一的な知識の教育によって、創造性をもたらす好奇心がどれほど失われやすいものかを危惧する。
 確かにルービックキューブは沢山(たくさん)売れた。しかし、数えられる物事は著者の成功の物差しではない。彼にとっての最も大きな成功は「ルービックキューブが多くの人の知的好奇心を刺激する」ということなのだ。そして、本書に記された著者独特の思考に翻弄(ほんろう)され、我々の知的好奇心もまた刺激を受けることになる。
    ◇
Ernő Rubik ハンガリーの発明家、建築家、建築学教授。1974年にルービックキューブの原型を考案。