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渡辺淳一文学賞の葉真中顕さん 作品と地続きのいまに、戦慄覚える

葉真中顕さん

 第7回渡辺淳一文学賞(集英社など主催)の贈賞式が20日、東京都内で開かれた。受賞作は葉真中顕(あき)さんの『灼熱(しゃくねつ)』(新潮社)。第2次大戦終結時、ブラジルにいた日本人移民の間で起きた「勝ち負け抗争」を題材にしている。日本の敗戦を信じない「勝ち組(戦勝派)」と、敗戦を認める「負け組(認識派)」とが争い、死傷者も出た実際の事件をもとに、抗争で引き裂かれた2人の青年を描く。

 葉真中さんはあいさつで、本作の着想を得た5年ほど前から今までを世界情勢に絡めて振り返った。コロナ禍で飛び交った多くのデマ、ウクライナ侵攻について事実をゆがめた報道が流れるロシア国内……。「80年近く前の勝ち負け抗争は、私たちがいま感じていることと地続きになっている。書いたあとも、戦慄(せんりつ)を覚えます」。誰しもが自分に都合のいい解釈で世の中を理解しているとし、「小説家は物語を作ることでそれに対抗できるのかもしれない。別々の物語を生きる人同士の架け橋になる力が、小説にはある」と語った。(田中瞳子)=朝日新聞2022年5月25日掲載