1. HOME
  2. ニュース
  3. 第26回手塚治虫文化賞 「チ。」で大賞の魚豊さん「自分に届く言葉、自分に刺さる場面を描きたい」

第26回手塚治虫文化賞 「チ。」で大賞の魚豊さん「自分に届く言葉、自分に刺さる場面を描きたい」

 手塚治虫文化賞には年間を通じての最優秀作品に贈られる「漫画大賞」、斬新な表現、画期的なテーマに贈られる「新生賞」、短編、4コマ、1コマ漫画を対象に贈られる「短編賞」があります。

 贈呈式には、手塚治虫さんの息子・手塚眞さんが登壇。「手塚治虫は80年も前からさまざまな人間の生き様を漫画で表現し、特に危機的な状況や厳しい環境の中で人間が自分の生きる道を見つけていく普遍性のある物語をたくさん発表しました。本年受賞された皆さまの作品から感じるのも、手塚治虫作品と同じ人の生き方でした」と受賞者をたたえました。選考委員の一人であるマンガ解説者の南信長さんは、選考過程について「今回は満場一致で漫画大賞の作品が選ばれました」と明かしました。

 その漫画大賞を受賞したのは、魚豊(うおと)さんの『チ。-地球の連動について―』(小学館)。15世紀のヨーロッパを舞台に、「禁じられた真理」を探求する人々を描いた一大叙事詩です。魚豊さんは漫画家として不安を感じることもあると述べた後、「その不安を凌駕するくらい、自分の漫画に自信があります」と言葉を強めました。「勇気をもって挑戦しようという気持ちにさせてくれる漫画は自分しか描けません。漫画を描く初期衝動は自分に届く言葉とか、自分に刺さる場面を探してみたい、描いてみたいという気持ちです。この機会にもう一回、初心に戻って積み上げていき、将来的に誰かの何かに繋がればいいなと思っています」

新生賞を受賞した谷口菜津子さん

 続いて、『教室の片隅で青春がはじまる』(KADOKAWA)、『今夜すきやきだよ』(新潮社)で新生賞を受賞した谷口菜津子さんが登場。それぞれ、女子高生たちの青春群像劇と、アラサー女子の二人暮らしを鮮やかに描いた作品です。谷口さんは「スピーチ嫌い」と緊張しつつ、「感謝を伝えたい人がいっぱいいる」と切り出しました。「読者の方や、刺激をくれた家族や友達に感謝の気持ちを伝えたいです。嫌な気持ちも漫画のヒントになるので、私に嫌な気持ちをさせた人にもお礼を」と言って会場の笑いを誘います。「編集者がいたから私は漫画を描けたと思う」と担当編集の名前を一人ひとり読み上げていく姿も印象的でした。

 パートナーを亡くした父親と息子の二人暮らしを描いた『いいとしを』KADOKAWA)、「しんどい現実」を生きる3人の女性の物語『白木蓮はきれいに散らない小学館)の2作で短編賞を受賞したのは、オカヤイヅミさん。「漫画のコマは窓のようで、窓の中にそれぞれ別の時間が流れていると思っています」と作者ならではの思いを語ります。「たとえば人の生活も描けますし、主観によって一瞬が永遠に思えるということも描けるんです。出来事ではなくて感情を閉じ込めておけるということがフィクションの強みです」

 贈呈式の終了後は「マンガ媒体の変遷」をテーマに、「コミックDAYS」(講談社)編集長の井上威朗さんと選考委員であるタレントの高橋みなみさんの記念トークイベントが行われました。「今はスマホで読めるマンガアプリが主流ですが、みんながガラケーを持っていた時代と同じように、これからもどんどんと変わっていくと思います」と話す井上さん。マンガアプリの利用者でもある高橋さんは、今後の漫画の多様なあり方について期待をふくらませていました。