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「アイヌのビーズ」書評 つなげ身につける 普遍と個性

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月11日
アイヌのビーズ 美と祈りの二万年 著者:池谷 和信 出版社:平凡社 ジャンル:工作・手芸・クラフト

ISBN: 9784582838961
発売⽇: 2022/04/08
サイズ: 21cm/286p

「アイヌのビーズ」 [著]池谷和信

 2万年の旅を叶(かな)えられる数少ない場所が博物館だ。一つの展示に見入ってしまうのも楽しいが、いくつかの展示の見比べが新鮮な驚きをもたらすこともある。
 2021年秋に国立アイヌ民族博物館で特別展「ビーズ――アイヌモシㇼから世界へ」が開催された。その関連セミナーを含めた展示や、開催にあたって得られた知見が本書にはまとめられている。
 アイヌモシㇼは日本列島北部の先住民であるアイヌ民族が自らの生活圏を呼ぶ言葉だ。範囲は東北北部からサハリン南部や千島列島まで広がっていた。アイヌの歴史と文化を縦軸に、部材をつなげ身につけるためのものとするビーズを横軸にとり、その普遍性や独自性を改めてあぶりだす。例えば、九州や本州で弥生・古墳時代に盛んに使用されたビーズがその後千年以上、特別な儀式での使用に限定されていく一方で、アイヌモシㇼでは途切れることなく発展を続けた。
 本書は序章と結論のほか14章からなり、博物館で展示コーナーをみてまわっているかのように読み進めることができる。ある章では、東北地方の古文書などに記録が残る17世紀より前のアイヌのコタン(集落)の分布研究の進展が記されている。遺跡から見つかるビーズの発掘により初めて10世紀にまでさかのぼってアイヌの居住地域が明らかになりつつあり、そしてそれは記録に残っている範囲よりも広いのだという。
 また、先住民の歴史や文化の展示のあり方についての章も興味深い。日本における先住民展示はどうあるべきか。特別展では企画段階から先住民当事者が加わり、現在のアイヌの作家のビーズを展示した。また、宝とされた先祖のビーズの多くが同化政策等の影響により次世代に引き継がれず失われていったという指摘も心に留めておきたい。
 展示物の写真を眺めるのも楽しい。しかし、読後は実物を見たいという気持ちが一段と強くなった。
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いけや・かずのぶ 国立民族学博物館教授、総合研究大学院大教授(環境人類学)。著書に『世界のビーズ』。