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「教室マルトリートメント」書評 子どもに「毒語」使っていないか 

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月02日
教室マルトリートメント 著者:川上 康則 出版社:東洋館出版社 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784491042626
発売⽇: 2022/04/28
サイズ: 19cm/303p

「教室マルトリートメント」 [著]川上康則

 一方的に答えを示そうとするノウハウ本とは違う。ちょうど、我が子との向き合い方に悩んでいたので、たちまち惹(ひ)きつけられた。
 「教室マルトリートメント」は特別支援学校の主任教諭である筆者の造語だ。「マルトリートメント」(不適切なかかわり)は日本の児童虐待防止法で定められた内容(身体的・性的・心理的虐待やネグレクト)より広い概念で、子どもの将来を案じて行う「しつけ」なども子どもの心にトラウマ(心的外傷)をつくり得ると捉える。「教室」は指導者側がメンバー構成を決める密室的な空間で、子どもは自由に出入りできない。
 子どもとのかかわりの中に「毒語」が溢(あふ)れてはいないだろうか。虎の威を借るような姿勢で問い詰め、本当の意図を語らず言葉の裏を読ませようとする。真意を誠実に伝えるべきなのに。下の学年の子と比較し、脅しで子どもを動かそうとする。支援を要する子に合理的配慮を行わず、「勝手にして」と見捨てる。
 本書は「相手を変える」「成功モデル」を追い求める姿勢を見直すことを提唱し、子どもが自分の内面世界を整理し、適切に言語化することを助けるヒントを示す。教員はもちろん、親にとっても参考になるだろう。大人は子どもが問題を「自分事」として受け止め、自ら「変えた」という実感をもてるよう、忍耐強く寄り添うべきなのだ。子どもは促成栽培で育たない。
 私が取り組む政治システムの研究でも同様だが、「落ち着いている」ように見える威圧的・支配的な環境で、統治者も教師も統率力・指導力があるように誤解してしまう。実際には、恐怖や監視によって静かにさせているだけなのに。
 コンビニやインターネットの普及で「社会の個人化」が進む中、「制度疲労」に陥る教室、学校、社会、国を「真に安心できる場」にするにはどうしたらよいか。私たちはこれまで当たり前としていた前提を覆す時に来ているのではないか。
    ◇
かわかみ・やすのり 東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師。著書に『子どもの心の受け止め方』など。