ISBN: 9784422117751
発売⽇: 2022/05/26
サイズ: 19cm/214p
「BTS、ユング、こころの地図」 [著]マリー・スタイン、スティーヴン・ビュザー、レオナード・クルーズ
さながら予言書のようである。
「いつの日か、彼らは別々の道を歩んでいくのだろう」
これが原書に記されてから2年後の今年6月。BTSは活動休止を宣言するのだから。
BTSは、米国ヒットチャートでK―POP初の1位を獲得するなど、数々の金字塔を打ち立てた韓国発のアイドルグループである。国連でのスピーチや、バイデン米大統領との面会など、一般的なアイドルの域を越えた活動は記憶に新しい。
対してユングは、20世紀初頭から中盤にかけて活躍した、スイスの精神分析家である。ユング心理学を日本に広めた河合隼雄の書籍を通じ、彼を知った人も多いだろう。
さて、20世紀に名を残す心理学者と、21世紀を代表するアイドルグループ。一体両者にどんな接点があるというのか。
BTSのアルバム『MAP OF THE SOUL:7』は、ユング心理学の影響が色濃いことで知られている。その影響は、響きの良いフレーズを取り出し作品に反映させるといった、表層的なものにとどまらない。ペルソナ、影、自我といったユングのコアとなる概念に、メンバー自らが手を伸ばし、それらは彼らの苦悩と結びつけられながら、楽曲として表現された。つまりこのアルバムは、「ユング心理学」として完成度が高いのだ。著者の一人であるユング派分析家、マリー・スタインはそう述べる。
本書は、BTSを手がかりにしたユング心理学の導入書であるが、同時に読者は、時に居心地の悪さすら覚えながら、「自分」に向き合うことになるだろう。
「自分らしさ」といった言葉に代表されるように、近年は「自分」を称(たた)える傾向が強い。本当の自分を見出(いだ)しさえすれば、問題は解決する。そんな風潮だ。
他方、ユングはそれを許さない。大嫌いな相手の中にあなたが見出すのは、実はあなた自身ではないか。そんな容赦のない問いを、ユング心理学は突きつける。目を背けたくなるような自分の影をも見つめ、自我を変容させてゆく。そんな無意識との対峙(たいじ)の先に成長があるのなら、それは楽な道ではない。
こう書くと、ユング心理学を気軽に学びたい読者を怖がらせてしまうかもしれない。でもその心配は無用である。本書では夢分析のやり方など、無意識に面白く出会うための方法も随所で紹介されているからだ。
その意味で本書は、軽妙かつ重厚なユングの解説書である。心理療法家、大塚紳一郎の翻訳・解説も心強い。
◇
Murray Stein ユング派分析家。シカゴのユング研究所に長年勤務。『ユング 心の地図』など▽Steven Buser 精神科医、アッシュビル・ユング・センター共同創設者▽Leonard Cruz 同センター共同創設者。