1. 立ち止まっていても「大丈夫」と思える関係性 真造圭吾『ひらやすみ』(2022年4月29日公開)
忙しく走り続ける谷原店長がこのところ考え続けているのが、「ほんとうに大切なことはなにか」。その問いに響いたのがマンガ『ひらやすみ』でした。俳優を志すも、今は釣り堀で働くフリーターのヒロトは、日々の暮らしを大切に生きています。その姿に癒やされながらも、俳優の先輩としての谷原店長はじれったさも感じます。夢をあきらめるのではなく、夢と挫折を繰り返しながら日々を生きるなかでも大切なことを見失わないこと――。谷原店長の現在の葛藤も伝わってきます。
長い人生の中では、佇んで、前に進めない時期があったって良い。それはきっと、日々の暮らしの整え方を大事にする時でもある。ただ……。たとえば、おばあちゃんがある時、ヒロトに尋ねる場面があります。
「アンタは今、幸せなのかい? (中略)結婚とか定職につくとか。次の段階の幸せってもんを考えないのかい?」
ヒロトはこう応じます。
「あんま考えたことないんだよなぁ」
半分は本音、でももう半分は――? ヒロトの言葉に寂しさをちょっと感じたりもしてしまうのです。
2. いとおしい記憶、しみじみと味わう ひうち棚『急がなくてもよいことを』(2022年6月24日公開)
家族を大事にする谷原店長の琴線にふれたのが、ひうち棚さんの作品でした。初めて映画を観に行った小学生の心情や家族そろって出かけた海水浴など、一つひとつに自分の記憶が重なると指摘します。日常を大事にしているからこその観察眼が、マンガに魅力を与えています。
著者の亡くなった父、母、祖母との思い出も、漫画を通じ振り返っていて、僕の記憶ではないはずなのに、その記憶すべてを何だかいとおしく感じます。親や祖母とのやりとりは、やがて、自分の妻や子どもとのやりとりに代わっていく。子どもが大きくなるにつれ、頼もしく感じつつ、寂しくもある。そんなに急いで大きくならなくて良いんだよ。まだまだそのままで、居てよ。タイトルにこめた気持ちが、よく伝わってきます。きっと、著者・ひうち棚さんは、家族との日々を大切に暮らしている方なのだろうと思います。
3. 人間観察の細やかさからユーモアが生まれる 東海林さだお『大衆食堂に行こう』(2022年2月25日公開)
谷原店長の趣味の一つは「町中華」巡り。食べることも日々の暮らしの大切な一部です。大衆食堂とそこに集う人たちに見つめる東海林さだおさんのまなざしをとらえ、その魅力の本質を伝えています。
退屈そうにスポーツ新聞を読む、店の主人の「人となり」。あるいは、つまようじを使って「シーハー」するおじさん客と、顔をしかめながら見ている若い女性客の関係性――。「食」という切り口を使って、実は人を描くという意図を感じます。そのありようを、完全なる傍観者としてジーッと観察する東海林さん。押し黙ったまま1人席に座り、周りをスパイしているその姿を想像するだけでも、なんだか笑いがこみ上げてくるのです。