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「欲望の系譜」書評 映画を軸にした納得の「時代論」

評者: 石飛徳樹 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月30日
世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70〜90s「超大国」の憂鬱 著者:丸山 俊一 出版社:祥伝社 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784396617820
発売⽇: 2022/05/31
サイズ: 19cm/217p

「欲望の系譜」 [編]丸山俊一

 人は時代論や世代論が大好きだ。「○○時代はこうだった」「××世代はああだった」と、もっともらしいキーワードを駆使して分析するのは実に楽しい。かくいう私もその一人。その手の本を書店で見かけるとつい手が伸びてしまう。
 NHKの丸山俊一さんらが手掛けたテレビシリーズを活字にした本書は、あまたある時代論や世代論の中でも最良の部類に入る。多くの類書を読み、時代を明快に定義するうさんくささも少しかぎ分けられるようになった私ではあるが、大いに納得させられた。
 現代社会のルーツは1970年代にあった――。歴史家ブルース・シュルマンさんと作家カート・アンダーセンさん、米国の知識人2人の見立てから本書は始まる。米国のサブカルチャー、特に映画を軸にして70年代に芽吹いた傾向が80年代、90年代を通じて成長するさまを例証していく。
 70年代の米映画は、60年代末に生まれた左翼的なアメリカン・ニューシネマが先導した。そしてその中から登場したジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグという若き天才がハリウッドをすっかり変える。「今日につながる市場(マーケット)への異常なほどの信頼を築いた時代」(シュルマンさん)であった。
 彼ら自身は決して新自由主義的ではない。むしろニューシネマ的なリベラルである。にもかかわらず、作る映画が次々にメガヒットし、とりわけ「スター・ウォーズ」はキャラクターの商品化という巨大なビジネスを確立した。こうして映画館は遊園地になった。
 アンダーセンさんは「80年代から90年代にかけてのアメリカ人は、『みんな子ども』症候群である」と言う。「成長してからもビデオゲームやヒーローものの映画を楽しみ、若々しく見える服や髪形、果ては整形をするようになりました」
 左翼思想が、一見相いれなさそうな新自由主義と結びついていく過程はスリルに満ちている。
    ◇
まるやま・しゅんいち 1962年生まれ。NHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー。