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「サンマデモクラシー」書評 米国統治下で声上げた豪傑たち

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2022年07月30日
サンマデモクラシー 復帰前の沖縄でオバーが起こしたビッグウェーブ 著者:山里孫存 出版社:イースト・プレス ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784781620787
発売⽇: 2022/05/07
サイズ: 19cm/325p

「サンマデモクラシー」 [著]山里孫存

 目を引くタイトルに、そびえ立つサンマの表紙。どこに連れて行かれるのかわからぬまま読み始めたが、気づけば、著者の「サンマをめぐる冒険」にすっかり引き込まれていた。
 舞台は、米国統治下の沖縄。琉球政府の上にあった「琉球列島米国民政府(USCAR)」が、日本本土からの「輸入魚」のサンマに20%の物品税をかけ、琉球政府が徴収し始めた。だが課税品目にサンマの文字はない。住民の不満は高まり、1963年、魚屋の玉城ウシという女性が、税金を返せと琉球政府を訴えた。
 ウシは裁判に勝つが、その直後、USCARトップは「布令」でサンマを課税品目に加え、これは過去にもさかのぼると発表。今度はこの布令を巡り、第2のサンマ裁判が起きる……。
 ウシが背負った家族の物語と、サンマ裁判の紆余(うよ)曲折だけで一冊の本になりそうだが、これはまだ序盤。サンマ裁判は、「島ぐるみ闘争」など沖縄の戦後史の源流となり、米軍支配と闘った政治家・瀬長亀次郎ともつながって、大きな展開を見せていく。
 生き生きと描き出される登場人物たちは、ウシ、ラッパ、トラ、カメ……と豪傑ぞろい(それが誰を指すのかは、ぜひ本書を読んでいただきたい)。政治的立場や境遇も異なる人たちが「おかしいことはおかしい」と声を上げ、バトンをつなぐように沖縄の自治を勝ち取ってゆくさまには、圧倒される。
 史実を丹念に追いつつも、堅いノンフィクションの形にしなかったのは、沖縄の戦後史を少しでも多くの読者に伝えようとする著者の試みだと感じた。軽妙な文章と巧みな構成で、読む人を離さない工夫があちこちにされている。
 サンマ裁判が問うたのは沖縄のデモクラシーだけではない。問われたのはむしろ、日本の、そして米国のデモクラシーだった。この本がいま世に出ることの意味を、改めて考えずにはいられなかった。
    ◇
やまざと・まごあり 1964年生まれ。沖縄テレビディレクター。本書はテレビ・映画で発表した作品を書籍化した。